(5)がんゲノム医療の幕開け 国立病院機構岡山医療センター乳腺・甲状腺外科医長 秋山一郎

連携病院の医師らをテレビ会議でつないで遺伝情報をもとに治療方針を探る

秋山一郎氏

 ■標準治療とがんゲノム医療

 最高の治療を受けたいなら標準治療を選べば間違いありません。「標準」とは松竹梅の竹ではありません。多くの実績に裏付けられた至高の治療です。ただ、それでも人によって効果がまちまちである原因の一つに、遺伝子の違いがあることがわかってきました。標準治療でも治らない患者さんの治療法を探すため、ゲノムと呼ばれる一人一人の遺伝情報の利用が始まっています。

 手術などで取り出したがん組織の遺伝子を調べ(がん遺伝子パネル検査)、遺伝子変異があれば、効果の期待できる新薬が見つかることもありますが、子供に伝わる病気や正体不明の遺伝子変異が見つかることもあります。

 究極の個人情報を取り扱うため、厚生労働省は全国45カ所の拠点病院(12カ所は中核拠点病院)を中心にがんゲノム医療を行うことを決め、岡山県では当院と川崎医科大学付属病院、倉敷中央病院の3病院が拠点病院への橋渡しを担う連携病院に指定されました。

 中国四国地方では岡山大学が唯一の中核拠点病院で、この傘下に18カ所の連携病院があり、毎週行われる専門家会議(テレビ会議)に患者さんの遺伝情報を持ち寄って一人一人の治療法を相談しています。

 中核拠点病院には日々、世界中から最新の遺伝情報や新薬を用いた臨床試験(治験)の情報が集まっています。それでも現在のところ、試みる価値のある薬が見つかるのは患者さんの1割程度にすぎません。遺伝子変異の多くは、いまだ病気へのかかわりが解明されておらず薬もありません。

 中核拠点病院に日本人のゲノム情報を集積することで、病気の原因となる遺伝子変異が見つけやすくなり効率的に臨床試験を行うことができます。

 ■未来を切り開く臨床試験

 がんゲノム医療は、標準治療で十分な効果が得られなかった人にしか行えません。しかし、今ある薬よりもよく効くなら、もっと早く使ったほうがよいかもしれません。そのことを調べる臨床試験が始まりました。パネル検査で見つかった薬を使った人と、現時点で最善である標準治療を受けた人の生存率などを比べるのです。その結果、有効性が確認されれば標準治療に格上げされ日本中で使われるようになるでしょう。

 今後、ゲノム情報に基づいた臨床試験が次々と始まります。新型コロナ対応で大変な中でも、新たな標準治療の確立を目指してがんゲノム医療は着実に歩み始めています。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)

 あきやま・いちろう 山形大学卒。岡山大学病院、四国がんセンターなどを経て2009年から岡山医療センター勤務。19年から現職。統括DMAT隊員として災害医療の指揮も担う。岡山大学医学部臨床准教授。

(2020年06月16日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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