岡山県糖尿病性腎症重症化予防プログラムとは 県糖尿病対策専門会議会長・岡山大学病院新医療研究開発センター教授 四方賢一氏に聞く

「糖尿病性腎症が進行すれば、治療はだんだん難しくなります。早期発見と早期治療、そして治療の継続が大切です」と話す四方賢一氏

 国民病とも言われる糖尿病は、放置しておくと腎症、網膜症、神経障害などの合併症を引き起こし、患者の生活の質(QOL)を著しく損なってしまう。その中でも国が最重点課題に掲げているのが糖尿病性腎症だ。岡山県は2018年に「県糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定。重症化リスクの高い医療機関の未受診者・治療中断者が継続的な治療に結びつくよう、かかりつけ医と専門治療機関、自治体、医師会などが連携して取り組んでいる。県糖尿病対策専門会議会長で、岡山大学病院新医療研究開発センター教授の四方賢一氏に、糖尿病性腎症の現状や事業の展望などを聞いた。

 ―糖尿病性腎症をめぐる問題点について教えてください。

 糖尿病が悪化したために起こる糖尿病性腎症は、人工透析を受けることになる最大の原因疾患です。腎症の重症化を予防することは、糖尿病患者さんのQOLの維持、生命予後の改善、国民医療費の抑制のため、極めて大きな課題となっています。

 透析を受けている患者さんは18年末で34万人。年間の新規導入は3万8千人で、その4割強にあたる1万6千人が糖尿病性腎症からの透析導入です。透析にかかる年間の医療費は、推計値ですが1・5兆円に上っています。

 原因となる糖尿病は生活習慣病なので、対策をしっかりとれば改善が期待できます。糖尿病の患者さんは、血糖値のコントロールが良ければ普通の人と変わりはありません。糖尿病を早期に発見、治療して合併症を防ぐことが第一です。腎症を伴っていれば、なるべく軽度な段階からしっかり治療しなければなりません。透析が必要な時期になるとQOLが下がってしまうからです。

 ―プログラムは、具体的にはどういった内容でしょうか。

 国民健康保険に加入している人のうち、特定健診の受診者を対象とします。糖尿病やその疑いがあることを前提に、腎機能障害が比較的軽微な人はかかりつけ医で治療を始めてもらいます。腎機能を示すeGFRの値が60未満またはタンパク尿を呈している重症化リスクのある人に対しては、かかりつけ医が専門医療機関と連携を取りながら、継続的な治療を施し、重症化予防に努めていただきます。

 関係する医療機関は、県内の700施設以上が登録している糖尿病医療連携ネットワーク(おかやまDMネット)の枠組みとマンパワーを活用できます。

 糖尿病性腎症の治療には血糖値と血圧の管理が大切です。患者さんには食塩の制限を基本とする食事療法と生活習慣の見直しに取り組んでいただきます。

 ―ポイントは、特定健診で治療を受けるよう勧められたとしても、受診しない人、途中で治療を中断した人にどう働きかけるのか、になりますね。

 重症化リスクの高い未受診者、治療中断者の抽出には、岡山県国民健康保険団体連合会が重要な役割を果たします。国保連が持っているデータと、保険者である市町村のデータを突き合わせれば、治療が必要な患者さんたちが、きちんと受診しているのかどうかが分かるからです。

 このプログラムは市町村によって方法が異なりますが、こうしたデータを元にした受診勧奨、保健指導を行ってもらうとともに、できるだけ経過を追跡していただきたいと思っています。やりっぱなしではなく、事業のアウトカム(成果)が重要ですし、プログラムの有効性を検証する必要もあるからです。

 これには大変な労力がかかります。しかも、岡山県で特定健診を受診しているのは3人に1人で、受診率向上も大きな課題です。

 事業は本年度から動き始める予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で中断した状態になっています。しかし、県民の健康寿命の延伸、医療財政を考えれば、どうしても必要な事業です。市町村と医師会のみなさまのご協力をいただいて、岡山県を挙げて頑張っていきたいと思っています。

■糖尿病性腎症

 糖尿病によって血液中の血糖値が高い状態が長期間続くと、体中の血管にダメージを与え、その影響は、とりわけ末梢の毛細血管に大きく現れる。

 左右一対の腎臓には、糸球体という毛細血管が集まったごく小さな組織が多数あり、この糸球体が老廃物を体外に排せつする役割を担っている。糖尿病性腎症になると、糸球体が壊れてしまい、老廃物排せつだけでなく血圧や体液量、イオンバランスの調整、ホルモンや血液の産生と言った生命維持に欠かせない機能が損なわれてしまう

 腎臓の機能が大きく落ちると、週に3回、1回3~4時間かかる血液透析などを行わなければ命を保てなくなる。

(2020年06月16日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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