夏場に目立つ脳梗塞注意 岡山赤十字病院脳卒中科 岩永健部長

「夏場になっても脳梗塞は減りません。動脈硬化が原因となるタイプが目立つので、とりわけ高齢者は気を付けてほしい」と話す岩永健部長

高齢者は脱水症状に警戒を

 脳卒中は冬に多い病気だと思われがちだが、夏でも注意が必要だ。国立循環器病研究センター(大阪府)の調査では、脳卒中のうち多くを占める脳梗塞は、季節による発症率の差はほとんど見られないという。岡山赤十字病院(岡山市北区青江)脳卒中科の岩永健部長は、夏場は動脈硬化によって血栓ができるタイプの脳梗塞が目立つと言い、「汗を大量にかくと血液の濃度が高まって血栓ができやすくなる。脱水症状を起こしやすい高齢者は注意が必要」と呼び掛けている。

 脳卒中は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」に代表される病気の総称。いずれも脳の神経細胞が壊れ、手足のまひや言葉が理解できなくなるなど、さまざまな障害が出る。寝たきりとなる最大の要因でもある。脳卒中のうち脳梗塞がおよそ3分の2を占めている。さらに脳梗塞は、脳動脈の動脈硬化を原因とするタイプと、心房細動(不整脈)など心臓病を原因とするタイプの二つに分かれている。

■冬は心臓病、夏は動脈硬化

 国立循環器病研究センターが2011~15年の急性期脳梗塞患者2965例を対象に、冬(12~2月)春(3~5月)夏(6~8月)秋(9~11月)に分けて解析した。それによると、心臓病を原因とするタイプの脳梗塞は冬の病気と言えそうだが、動脈硬化が原因の脳梗塞は、脱水などを契機とするので暑い季節にも注意が必要だとしている。

 岩永部長によると、動脈硬化が進むと、血管の内側にコレステロールなどの脂肪分がたまって血管内を狭くするため血流が滞る。血流が遅くなると血栓(血の塊)ができて血管をふさいでしまうのが脳梗塞だ。血流が止まって酸素や栄養素が行き渡らなくなり、周辺の脳組織が壊死してしまう。夏場を迎え、汗をかいて体の水分が失われると、血液が濃縮されて血栓ができやすくなるという。

■時間との勝負

 症状は、左右どちらかの腕に力が入らなかったり、顔の片側が垂れ下がるなどの顔や手足のまひ、言葉が出てこなかったり、ろれつが回らなくなる言葉の障害など。「多いのは体の片側に異常が出るケース。字がうまく書けなくなった、箸が使えなくなったなど、普段できていたことが突然できなくなったら要注意だ」と岩永部長は指摘する。

 脳梗塞の治療は時間との勝負と言われている。というのも、時間の経過とともに脳組織の壊死は広がっていくからだ。脳梗塞が起きている周辺では、血流量は低下しているものの、壊死はまだ免れている部分があり、岩永部長は「血流を速やかに再開できるかどうかで患者のその後の状態が大きく変わってくる」と、早急な治療の必要性を強調する。

 脳梗塞を早期に見つけて治療に結びつけるため、典型的な症状を表現する言葉に「FAST」がある。「FACE」が顔のまひ、「ARM」は腕のまひ、「SPEECH」は言葉の障害で、これらに気づいたら発症時刻「TIME」を確認して直ちに119番するよう呼び掛けている。

■心不全の人は注意

 脳梗塞の原因は心房細動、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など。心房細動では血栓ができやすく、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病、喫煙があると動脈硬化が起きやすくなるが、これらはいずれも「治療できる原因だ」と岩永部長は言う。発症予防には食事に気を配り、運動を心がけながら、原因となる病気をきちんと治療することが大切だ。

 連日暑さが続いている今の季節は、脳梗塞の予防に向けて水分補給も重要になってくる。とりわけ高齢者は体温の調節機能が低下し、のどの渇きにも気がつきにくくなっている。熱中症対策もかね、普段より多めに水分をとるよう心がけなければならない。ただし、「心不全や不整脈など、心臓に持病がある人は水分の取り過ぎに気を付けなければならない」と岩永部長。症状の悪化を招く懸念があるので、かかりつけ医に夏場の過ごし方を相談してほしいと話している。

 いわなが・たけし 福岡・小倉高校、宮崎医科大学卒。九州大学第二内科入局後、川崎医科大学、豪州・メルボルン大学などを経て2011年から岡山赤十字病院で脳卒中科部長。13年に川崎医科大学附属川崎病院脳卒中科医長を務めた後、14年に岡山赤十字病院に戻り、脳卒中科部長、脳卒中センター長、患者サポートセンター副センター長を務める。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医・指導医・評議員、日本脳神経超音波学会脳神経超音波診断士・評議員、日本老年医学会老年病専門医・指導医。

(2020年07月07日 更新)

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