(6)ワンチームで肝臓がんに立ち向かう 国立病院機構岡山医療センター副統括診療部長 太田徹哉、消化器内科医長 万波智彦

太田徹哉医師

万波智彦医師

 肝臓がんは、患者数が年間4万人、死亡者数は全てのがんの中で5番目に多い国民的な病気です。しかし、肝臓がんの原因は以前に比べて様変わりしており、一見健康に見える人も無縁ではありません。治療法の進歩も含め、最新の知識を紹介します。

 ■メタボと肝臓がん

 これまで肝臓がんの主たる原因であった肝炎ウイルスは、新薬の相次ぐ登場により次第に減少しつつあります。その一方で、B型やC型肝炎ウイルスが原因ではない、非B非C型肝炎から発生する肝臓がんの割合が増えています=図1

 中でも最近注目を集めているのが、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)からの発がんです。肥満、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームを持っている人は、アルコールをあまり飲まなくても肝臓に脂肪が多く貯まります(脂肪肝)。そういった人のうち10~20%程度で脂肪肝が進行し、脂肪が貯まった肝細胞が持続的に炎症を起こすために、肝臓がんを発症しやすくなります。

 「脂肪肝くらいなら大丈夫」と、軽く考えるのは禁物です。当院でも、他疾患の治療中に肝臓がんが発見されることが多くなっており、メタボからの生活習慣病においても注意が必要です。

 ■肝臓がんの最新治療

 穿刺(せんし)による焼灼(しょうしゃく)、外科的切除、薬物治療、カテーテル治療などさまざまな方法があります。複数の治療法を、適宜使い分けたり組み合わせたりする、「集学的治療」が行われるのが特徴です。

 ラジオ波焼灼療法(RFA) 超音波を利用して体の表面から腫瘍に針を刺し、針の先端の電極から発生させた熱でがんを焼いてしまう治療法です。2~3センチ程度までの大きさのがんが対象です。当院では、治療前に撮影されたCTやMRIによる大量の画像データを、超音波画像のリアルタイムな動きに連動させ、腫瘍の描出をサポートする「フュージョン機能」を備えた最新の超音波機器を導入しています=図2

 腹腔鏡下肝切除術 肝臓の脈管構造に応じて適切な領域を切除する方法(系統的切除)を従来から行っており、近年では、身体に負担の少ない腹腔(ふくくう)鏡下肝切除術を導入して手術適応のある方々に積極的に応用しています。立体的な視野が得られる3D内視鏡を用いた安全な手術法です。開腹手術に比べて手術によるダメージが圧倒的に少なく、術後の回復も良好です。そのため、肝臓がんに対する通常の肝切除のみならず、ラジオ波焼灼療法やカテーテル治療では対処しづらい腫瘍に対する代替治療としても注目されています=写真

 ■おわりに

 当院では、肝臓専門医・超音波専門医(消化器内科)、肝胆膵(すい)外科高度技能指導医(外科)、IVR専門医(放射線科)によるワンチーム体制で肝臓がんに対する診療を行っています。また、国立病院機構の肝疾患研究グループに参加して新しい治療の開発にも取り組んでおり、高度な医療の提供も可能です。肝炎ウイルスにかかっていなくても、生活習慣病による肝機能障害が気になる方は、お近くの医療機関にて一度は超音波検査を受けてみてください。

 「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓に、まずは関心を持つところから始めましょう。何か異常があれば、岡山医療センターがワンチームで対応します。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)。連載は今回で終わりです。

 おおた・てつや 岡山大安寺高校、岡山大学医学部卒。国立がんセンター、岡山大学病院を経て2004年より岡山医療センター勤務。19年より現職。日本消化器外科学会専門医・指導医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医。岡山大学医学部臨床教授、医学博士。

 まんなみ・ともひこ 岡山操山高校、岡山大学医学部卒。岡山労災病院、岡山医療センター、中国中央病院を経て、2018年より現職。日本消化器病学会専門医・指導医、日本肝臓学会専門医、日本超音波医学会専門医・指導医。岡山大学医学部臨床准教授、医学博士。

(2020年07月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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