(5)リハビリでよくなった 万成病院リハビリテーション課主任・作業療法士 森安有岐子

森安有岐子氏

 ■自分らしく生きる

 認知症のリハビリテーションは薬を使用しない非薬物療法に位置付けられています。リアリティ・オリエンテーション、回想法、バリデーションなど各種療法が存在しますが、認知症に必ず有効とされる治療法は確立されていないのが現状です。しかし、認知症の方が主体的に取り組める作業の中で各種療法を取り入れていくことで、認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。その人の生活歴や育ってきた環境の中で本当にやりたいこと(生活行為)を探し、本人が持っている能力を引き出し、その人らしい生活が継続できるようにしていくことが認知症のリハビリテーションにおいては重要となります。

 ■西日本豪雨をきっかけに認知症が進行したAさん

 80代女性のAさん。数年前、倉敷市真備町に住んでいましたが、その後岡山市に引っ越しました。徐々に物忘れが目立つようになり、日頃はデイサービスなどを利用していました。

 そんな中、西日本豪雨災害が起こり、真備の友人が被災したことを知ります。友人と喫茶店に行くことを楽しみにしていたこともあり、ショックを受け、認知症の特徴であるBPSD(周辺症状)の抑うつ状態に陥りやすい状態となりました。

 食事量は低下し、トイレの失敗も見られ始め、自宅での生活が困難となり入院。入院当初は歩行も不安定で、移動は車いす。1日中ベッドで横になって過ごしており、声かけに返答もなく、点滴で栄養補給を行う日々が続きました。そんな中、「何か本人が興味を持てること、楽しめることはないか?」と毎日枕元に行き、声をかけ続けました。

 ■“こころ”が動いた

 病院のクリスマス会の日。院内に喫茶店ができ、クリスマスケーキやコーヒーが飲めると伝えると、彼女の“こころ”が動きました。「もうそんな時期ですか。昔友達とよく喫茶店に行きました」と、その日入院後初めて病棟を出て、喫茶店に行けたのです。

 それ以降、少しずつ前向きな返事が返ってくるようになりました。食事量も増え、毎日のリハビリ活動に対しても参加の頻度は増え、自力での歩行も可能となりました。以前行っていた畑仕事の知識を生かし、野菜を栽培したり、それを調理しみんなで食べる収穫祭に参加するなど、生活の場が広がっていきました。

 収穫祭では回想法を用いました。各家庭の味付けや調理方法について昔を回想しながら作り、Aさんにとっては食べる楽しさや生きる喜びを感じてもらえたようで、笑顔で冗談を言う姿がたくさん見られるようになりました。

 そして入院から3カ月後、抑うつ状態は改善し、物忘れはあるものの無事に退院を迎えられました。

 ■その人らしく生きる

 認知症の初期では抑うつや無気力のような症状がよく見られます。しかし本人が楽しめる活動や本当にやりたいことを提供し、適切な関わりや環境を整えることで自信が回復し、抑うつの症状が改善するケースはよくあります。自分らしく住み慣れた地域や自宅で暮らしながら、何かあればいつでも支援できる体制や環境を整え、安心できるサービスを提供していけるよう、今後も作業療法士として支援したいと思います。

     ◇

 万成病院(086―252―2261)

 もりやす・ゆきこ 川崎医療福祉大学リハビリテーション学科卒業。2000年に万成病院に作業療法士として入職。介護支援専門員、認知症キャラバンメイト取得。岡山市出身。

(2020年08月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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