第4回「嚥下障害」

宮崎彰子療法士長

兼信佳代副主任言語聴覚士

 口から食べることは生きていく上でとても重要だ。「おなかがすいた」という自然な欲求、料理を目の前にして湧き上がる興味と期待、口に入れ、歯ごたえや舌触りを確かめたときの興奮、飲み込んだ後の満足感―。食べるとは、単に栄養補給というだけでなく、感覚や思考、記憶も呼び起こしながら口や手の筋肉を動かす総合的な運動でもある。ところが病気をしたり高齢化によって、口から食べる機能が衰える「嚥下(えんげ)障害」を招くことがある。低栄養の状態に陥り気力を失い、誤嚥性肺炎を起こしたりもする。「川崎学園集中講義」第4回は、嚥下障害をどうすれば防げるのか、川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンターで訓練・指導に当たる宮崎彰子療法士長と兼信佳代副主任言語聴覚士に話を聞いた。

「嚥下障害とは」
川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター 宮崎彰子療法士長
(川崎医療福祉大学リハビリテーション学部言語聴覚療法学科特任講師)


 ●複雑な働き

 嚥下とは、食べものを認知し、口の中に取り込み、かみ砕いて、ゴクンと飲み込んで胃に送り込むまでの過程を言います。「先行期」「準備期」「口腔(こうくう)期」「咽頭期」「食道期」の5期に分けられ、非常に複雑な動きを瞬時に行っています。「嚥下障害」とは、この食べるという機能が障害を受けた状態です。「誤嚥」は食べものや唾液などが誤って気管に入ることです。

 ●危険な誤嚥性肺炎

 嚥下障害の原因は、脳卒中や脳外傷、脳腫瘍など脳に病変が存在する疾患、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症を代表とする神経筋疾患などがあげられます。また加齢に伴い、歯の欠損や舌機能の低下、唾液分泌量の低下などによって嚥下障害を引き起こす可能性があります。

 日本人の死因の上位に入っている肺炎の多くは誤嚥性肺炎といわれています。2017年度の人口動態調査では、死因は肺炎が5位、誤嚥性肺炎は7位となっています。特に高齢者ではその割合が高く、90歳以上では肺炎の9割以上が誤嚥性肺炎だったという研究(08年)もあります。

 ●疾患に応じた訓練

 私たち言語聴覚士は「話す」「聞く」「食べる」分野のスペシャリストです。今年3月時点で有資格者は約3万4千人います。

 言語聴覚士は嚥下障害に対し、医師や看護師が行った問診やカルテの情報を基に、さらに必要な内容を確認します。口腔内の状態、口唇や舌の動き、発音や声の状態、嚥下、呼吸の状態を総合的に評価し、疾患に応じた個別性の高い訓練内容を立案します。その内容を医師や看護師と情報共有し、栄養や食事の形態については管理栄養士と相談をするなど、チームの一員として各職種と連携をしながら症状の改善・維持を図ります。

「予防と対策」
川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター 兼信佳代副主任言語聴覚士


 ●兆候

 嚥下の機能が低下した高齢者は誤嚥してもむせることがなく、知らぬうちに誤嚥を繰り返している場合があります。ですから周囲の気づきが重要です。日常的な兆候としては、たんが増える、発熱がある、食欲がない、やせた、せきで夜眠れなかったり目覚めたりする、声がかすれてきた―といったことが挙げられます。食事の際には、食べるのが遅くなった、硬いものを食べない、食べ物が口からこぼれる、口の中に食べ物が残る―などが確認のポイントです。

 ●機能の維持

 脳卒中のような急性発症する病気に伴う嚥下障害は一時的で、回復する場合もありますが、進行性、慢性の疾患に伴って起きる嚥下障害では機能維持が重要になってきます。また、加齢に伴って全身の筋力が低下すると嚥下障害が起きやすくなります。これについても機能維持が重要です。安全に食べられる状態を維持することが誤嚥性肺炎を予防し、栄養低下やフレイル(虚弱)を防ぐことにもつながります。

 ●口の体操

 嚥下機能を維持する方法を紹介します。口、頬、舌の運動で嚥下に関連した筋力を維持しましょう。特に舌は食べる過程において非常にたくさんの働きをしています。嚥下おでこ体操は、食べる時に重要な、喉をゴクンと上に挙げる筋肉を鍛える運動です。片手でおでこを触って押します。同時におへそをのぞき込むように頭は下へおろします。5秒間を5回から10回程度行ってください。これらを食事前の準備運動として行うとより効果的です。

(2020年10月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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