第5回「糖尿病」

金藤秀明教授

蜂谷祐子栄養副主任

 血糖値が高くなる糖尿病は、症状がないまま進行する生活習慣病だ。血糖値を上げるブドウ糖は生命活動の維持に必要な栄養素だが、過剰に摂取すると体の至る所に障害を及ぼす。何年間も放置していると心臓病や腎不全、失明、足の切断といった、今ある生活や命までもが奪われかねない重い病気になってしまう。肥満の増加や高齢化に伴い中高年を中心に糖尿病患者は増えていて、予備群を含めると国内で約2000万人と言われる。「川崎学園集中講義」の第5回は糖尿病のメカニズムや食事療法について、川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学の金藤秀明教授、同大学付属病院栄養部の蜂谷祐子栄養副主任に話を聞いた。

「血管を傷つける病気」 川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学 金藤秀明教授

 糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、血管を傷つける病気です。通常はすい臓から分泌されるインスリンが血糖値を下げるのですが、肥満や加齢などでインスリンの分泌が少なくなったり、働きが悪くなったりして、高血糖状態になります。この状態を放置していることで細小血管障害や大血管障害などの合併症を引き起こします。

 ●怖い合併症

 三大合併症と言われるのが細小血管障害の網膜症、腎症、神経障害です。国内では糖尿病が原因の網膜症で毎年約3千人が失明しています。腎症は最終的には人工透析に至りますが、その原因で最も多いのが糖尿病です。糖尿病のため透析に至った患者さんが5年以内に亡くなる可能性は50%と言われます。神経障害では、ひどくなると下肢の壊疽(えそ)を招き、毎年約3千人が脚を切断しています。

 大血管障害では狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、下肢の閉塞性動脈硬化症があります。糖尿病の患者さんは認知症やいくつかの悪性腫瘍も併発しやすいことが最近の調査で明らかとなっています。

 ●AGEや酸化ストレス

 合併症を引き起こすメカニズムとして、AGE(最終糖化産物)の影響が指摘されています。血液中の過剰なブドウ糖がタンパク質と結びつくと複雑な過程を経てAGEが生成されます。AGEが血管内に蓄積すると、コラーゲンなどが柔軟性を失って動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳梗塞などにつながります。また、糖尿病状態では酸化ストレスが高まることが知られています。酸化して、悪質さを増した悪玉コレステロールが血管を傷つけ、動脈硬化を進展させます。

 ●新たな薬に注目

 治療は食事療法、運動指導、薬物治療の三つです。食事療法は特に重要で、糖尿病の方には栄養指導から始めます。薬物治療ではインスリンの働きをよくしたり、分泌を高めたりする薬を使います。最近では尿に糖を排出して血糖を下げる薬も注目されています。飲み薬でうまく血糖コントロールができない際にはインスリン療法を導入します。

 ●定期健診を

 糖尿病は、喉が渇いたり尿の回数が増える、体重が減るといった症状はありますが、血糖値が非常に高くなった場合だけです。症状が全くない人の方が多く、見過ごされがちです。ですから年に1回は健診を受けていただきたい。糖尿病を有している方は定期的に尿検査、眼底検査を受け、合併症の発症、進展を防いでいただきたいと思います。

「血糖コントロールは食事から」 川崎医科大学付属病院栄養部 蜂谷祐子栄養副主任

 健康の基本は規則正しい生活習慣です。その中でも大切なのはバランスの良い食習慣で、食事は1日3回、決まった時間に、ほぼ同じエネルギー量をとるのが理想です。規則的な食習慣は血糖値の変動を少なくし、安定させてくれます。

 ●適正なエネルギー量

 食事療法の基本は適切な摂取エネルギー量を知ることです。糖尿病ではインスリンの作用が不足するので、それに見合った摂取エネルギーになるように腹八分目の食事を心がけてください。適正なエネルギー量は性別、身長、体重、年齢、身体活動量などで決まります。男性は1日1600~2000キロカロリー、女性は1400~1800キロカロリーです。

 ●バランスが大切

 栄養バランスの良い食事とは、1日のエネルギー摂取量内で炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素を過不足なく摂取することです。

 脂質の取り過ぎは動脈硬化を招きます。腎症予防のため食塩の取り過ぎにも注意しましょう。男性は1日7・5グラム、女性は6・5グラム未満です(高血圧症の場合は1日6グラム未満)。

 3回の食事のエネルギー量をそろえるのは、糖分の取り過ぎで食後血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」の状態を避け、インスリンを分泌するすい臓に負担をかけないためです。朝食を抜くと、前日の夕食から時間が空きすぎて血糖が少なくなった反動で、昼食後の血糖値は上がりやすくなります。就寝前のカロリーの高い食事は肥満の原因にもなります。そうした食生活を続けると血糖値が下がらなくなり、糖尿病になりやすくなったり糖尿病の人は症状を悪化させます。

 ●食べる順番も大切

 食事の初めにまず箸を付けたいのは、野菜やキノコ類、海藻など食物繊維の多い食材です。野菜の目安量は1日350グラム以上(食物繊維として20~25グラム)。糖の消化・吸収を遅らせ、食後の急激な血糖値上昇を抑制します。最初に野菜をしっかり咀嚼(そしゃく)しながら5分以上かけて食べ、その後におかずやご飯を食べると、血糖値が安定して下がったという研究報告があります。

 とりわけ、食べるスピードには注意が必要です。1食に15分以上はかけてください。脳の満腹中枢が「満足感」を感じ始めるのは約10分後です。ゆっくり食べると食べ過ぎを防げます。こうしたことを習慣化し、健康な毎日を送ってください。

(2020年11月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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