(2)高齢者の消化器がん治療、検診の重要性 天和会松田病院外科医 勝部亮一

勝部亮一氏

 現代は超高齢社会であると言われて久しくなりますが、2019年の日本人の平均寿命は男性81・41歳、女性87・45歳で過去最高を更新しております。

 日本を含めて多くの国で高齢者は65歳以上と定義されていますが、10~20年前と比較して加齢に伴う身体的変化が5~10年遅れて出現しており、従来よりも同じ年齢の方が若返っているように感じられるのは皆さんも実感されるところだと思います。そのため高齢者の定義そのものが見直されており、日本老年学会・日本老年医学会から65~74歳を准高齢者、75~89歳を高齢者、90歳以上を超高齢者と定義する提言がなされています。

 以前よりも元気に長生きができるようになりましたが、それに伴ってがんになる方も増えてきています。これは、がんがDNAの傷が蓄積されることで生じるためで、長生きするとがんになる方が増えるのは仕方のないことです。

 最近は内視鏡治療技術が発達してきたために、消化管(食事が通るところ)の早期がんは手術をしなくても内視鏡で治療ができるようになりました。

 しかし、高齢の方は検診を受けていないことも多く、「ご飯が食べられなくておう吐する」「おなかが張って痛い」「血便が出る」などのような症状が出てから受診される場合があります=図。これらの場合には、がんによる症状であれば進行がんであることが多く、内視鏡治療は難しいため手術が必要になってきます。そのため、積極的に検診を受けておくことをお勧めいたします。

 「高齢であればがんの進行は遅いのですか?」と質問されることがあります。がんの進行速度は年齢よりもがんのタイプが関係することが多く、必ずしも高齢だから進行が遅いということにはなりません。また、高齢の方が手術を受ける場合に、ご本人もしくはご家族から「手術を受けても大丈夫でしょうか?」と聞かれることもよくあります。手術となると若い方でも危険性はありますが、高齢であれば若い方とは違った問題点があります=

 ただ、消化管のがんであればご飯が食べられず日常生活に支障が出ることが多いため、症状が出ている、もしくは悪化の危険性があれば手術をお勧めいたします。手術の内容にもいろいろあり、がんを治すことを目的とした術式からご飯を食べられるように日常生活の質を維持する術式までさまざまです。高齢であってもそれぞれの身体の状態を見極め適切な麻酔方法と術式を選択することにより、安全に手術を行うことが可能と考えております。

 手術後の生活を心配される方も多いと思います。当院でもなるべく早期からリハビリを行い、手術前の生活に戻っていただけるよう努力しております。また、入院が長期に及ぶ場合やご自宅への退院が難しい場合も、地域連携室の医療ソーシャルワーカーを通して転院や施設への入所などを調整させていただきます。

 高齢でがんが発見されてもあきらめずに治療方法についてご相談下さい。また、なるべく早期でがんを発見するために、定期的に検診を受けましょう。

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 天和会松田病院(086―422―3550)

 かつべ・りょういち 岡山高校、岡山大学医学部卒。倉敷成人病センター、中国中央病院、岡山大学病院などを経て2015年10月より現職。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医。

(2020年11月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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