(3)膝関節症患者さまのよりよい社会復帰を目指して 岡山赤十字病院リウマチ科兼リハビリテーション科副部長 高木徹

高木徹氏

 昨今、変形性膝関節症に対する手術治療は増加傾向にあり、矢野経済統計では2018年度には日本で8万件以上の人工膝関節置換術が行われています。人口比率でいうと岡山県でも年間約1500人程度の患者さまが同手術を受けられている計算になり、今後さらに増えていくことが推測されています。

 当院でも股関節と合わせると年間100人以上の患者さまに人工関節置換術を受けていただいていますが、この度は当院で行っている変形性膝関節に対する手術治療の説明をさせていただきます。

 変形性膝関節症は膝関節内の軟骨がすり減って生じる病態ですが、初期のうちは整形外科クリニックなどで投薬コントロールや理学療法などの治療が行われます。それらの保存的治療に抵抗的になった場合に当院のような専門病院へ紹介をいただき、手術治療が行われることとなります。

 変形性膝関節症に対する手術方法には主に高位脛骨(けいこつ)骨切り術、単顆(たんか)型人工膝関節置換術、全人工膝関節置換術などがあります=図1。高位脛骨骨切り術は骨切りによる角度調整を行うことによって荷重部位を変えることで疼痛(とうつう)を軽減することを目的とした手術です。単顆型人工膝関節置換術は手術による侵襲が少なく、術後早期に社会復帰が可能ですが、内外側いずれかの関節症に限定されるなどその適応に注意が必要です。全人工膝関節置換術は末期関節症への適応に長(た)けており長期成績も安定していますが、手術による侵襲が他の手術方法に比べると高いです。

 なお、関節症の進行度によってはいずれの手術方法も選択可能な場合がありますが、その場合には年齢や内科的合併症あるいは社会復帰までに許容される期間などを考慮した上で、患者さまに合った手術方法を勧めさせていただくようにしております。

 膝関節の治療において手術と同様に重要なのがリハビリテーションになります。中でも可動域獲得はとても重要で基本120度以上の屈曲を目指して訓練を行います。当院では可動域獲得向上のために自転車エルゴメーターを使用しています=図2。自転車エルゴメーターは本来循環器領域における冠疾患の診断や評価、治療効果の判定などに使われるものですが、当院では逆にエルゴメーターによる膝運動を主体として使用し、各メーターの測定をサブとして使用することで早期の可動域獲得を目指しております。

 膝関節症により日常生活に支障をきたした患者さまは術後の快適な生活を夢見て手術を決心されます。当院ではそういった患者さまの満足度を上げるための努力や工夫を日々行っております。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 たかぎ・とおる 金沢大学医学部卒。岡山大学病院、呉共済病院、鳥取市立病院などを経て2012年4月から岡山赤十字病院勤務。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本人工関節学会認定医、日本リハビリテーション学会認定臨床医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。医学博士。

(2020年11月02日 更新)

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