皮膚通して食物アレルギー 倉敷中央病院皮膚科・大谷稔男主任部長に聞く 

大谷稔男主任部長

 11月12日は語呂合わせで「いい皮膚の日」。日本臨床皮膚科医会が、その役割の重要性に注目してもらおうと1989年から提唱している。皮膚は、さまざまな細菌やウイルス、刺激物質、紫外線などから体を守っている、とても重要な臓器だ。そのバリアー機能に異常があるとアトピー性皮膚炎が発症する可能性があり、食物アレルギーの引き金にもなりかねない。「免疫」をめぐる両者の関係などについて、倉敷中央病院(倉敷市美和)皮膚科の大谷稔男主任部長に話を聞いた。

 ―まずは食物アレルギーについて教えてください。

 「免疫」はもともと体にとって害となるものを排除する働きです。ところが、食物アレルギーでは、特定の食物に含まれる物質に免疫が働き、体に不利益な症状を引き起こしてしまいます。原因となる食物(アレルゲン)が体の中に取り込まれて、異物と認識されるとそれに反応するIgE抗体が作られます。この状態を「感作」と呼びます。いったん感作が成立した後に、再びアレルゲンが入ると、さまざまなアレルギー反応を引き起こす物質が放出されます。最も多い症状がじんましんで、皮膚の一部が盛り上がり、かゆみを伴います。ほかにも、まぶたや唇の腫れ、鼻水、のどの違和感、息苦しさ、おう吐、腹痛などを起こすことがあります。

 ―アレルゲンとなる食物は、どのようなものが多いのでしょうか。

 乳児・幼児早期では主に鶏卵、牛乳、小麦ですが、3歳までに50%、小学校入学までに80~90%の小児が自然に治ってしまうといわれています。学童期から成人で新たに発症する食物アレルギーは甲殻類、小麦、果物、魚類、ソバなどがあり、こちらは乳幼児期に発症したアレルギーと比べると、治りにくい可能性があります。

 2010年ころには加水分解小麦を含んだ石けんを使って小麦の食物アレルギーになった事例が多数報告されました。これは「経皮感作」が原因でした。皮膚から入った小麦の成分に対して感作が成立し、食物アレルギーを起こすようになってしまったのです。調理師が手の荒れた状態で食品を触り、経皮感作により、食物アレルギーを発症することもあります。

 ―アトピー性皮膚炎との関係はいかがでしょうか。

 乳児期には、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併することがよくあります。以前は、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因とも考えられていましたが、授乳中の母親や乳児が食物を除去しても改善しないことが少なくありませんでした。最近はむしろ、アトピー性皮膚炎が、乳児期に発症する食物アレルギーの原因ではないかと考えられるようになっています。すなわち、皮膚の障害によりアレルゲンの侵入が容易になり、皮膚を通して感作が成立することで、食物アレルギーを発症する可能性があるのです。

 ―食物アレルギーがある乳児のアトピー性皮膚炎は、どのように対処すればよいのでしょうか。

 血液検査で、ある食物に対するIgE抗体の値が高いというだけで、いきなりその食物を控えるのは得策ではないと思います。不適切な除去食は成長・発育障害をきたしかねません。ステロイドの外用薬による治療を行っても皮膚症状の改善がみられない場合にのみ、除去食が考慮されるべきです。食物を除去すると皮膚症状が良くなり、摂取(経口負荷試験)するとまた悪くなることを医師と共に確認してください。

 除去食療法の開始にあたっては適応を十分に考慮し、医師の指導のもとに行うことが必要です。アトピー性皮膚炎には多くの因子が関わっています。アトピー性皮膚炎の治療は薬物療法とスキンケアが基本であり、アレルゲンの除去は補助療法にすぎないのです。

     ◇

 日本臨床皮膚科医会岡山県支部は「皮膚の日」に合わせ、毎年この時期に市民公開講座と専門医による無料相談会を開いていたが、今年はコロナ禍のため中止とした。

 おおたに・としお 東京医科歯科大学卒。京都大学皮膚科入局。京都桂病院、医仁会武田総合病院、和歌山県立医科大学助教授を経て2006年から倉敷中央病院皮膚科主任部長。日本皮膚科学会皮膚科専門医。日本皮膚科学会認定研究施設指導医。医学博士。

(2020年11月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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