(3)直腸肛門内圧検査 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院副院長 嶋村廣視

嶋村廣視副院長

 肛門や尿道の大きな役割は便や尿を漏らさないこと=禁制(Continence)で、これが障害された状態が失禁(Incontinence)です。

 肛門領域で言いますと、便失禁に悩む方は少なくなく、本邦における65歳以上の便失禁の有症率は男性8・7%、女性6・6%と言われています(便失禁診療ガイドライン 2017年版)。「知らない間に便が漏れている」「便意を催すと我慢ができない」などでお困りの方は男性でほぼ12人に1人、女性で15人に1人程度おられるということです。

 肛門を締める筋肉は肛門括約筋ですが、これには平滑筋(主に内臓に存在する、自分の意思でコントロールできない筋肉)から成る内肛門括約筋と、横紋筋(主に骨格を取り巻く、自分の意思でコントロールできる筋肉)から成る外肛門括約筋の二つがあります=

 普段便が漏れないように肛門を閉じておく働きは主に内肛門括約筋が、便意が生じたときに我慢する働きは外肛門括約筋が担っています。

 内肛門括約筋の働きが落ちると便漏れが生じます(漏出性便失禁)。外肛門括約筋の働きが落ちるとトイレに間に合わない(切迫性便失禁)ようになります。

 これらの筋力の強さは肛門科医であれば肛門に指を入れる直腸診で判断できますが、より客観的に判定するのに用いるのが直腸肛門内圧検査です。測定する機器にはいくつかの種類があり、以前は直腸内に入れたセンサーを引き抜きながら測定する方法が一般的でしたが、最近はたくさんのセンサーで同時に測定可能な多チャンネルのもの(High Resolution Manometry=HRM)が登場し、40チャンネルの機器も登場しています(当院は12チャンネル=写真)。

 HRMの利点は正確性と簡便性で、いろいろなデータを測定しても当院の場合で、10分程度で終わります。挿入するセンサーの直径は5ミリ程度で苦痛はほぼありません。測定項目の主なものは最大静止圧と随意収縮圧で、それぞれ主に内肛門括約筋と外肛門括約筋の機能を反映しています。これらを目安に骨盤底筋訓練やバイオフィードバックといった治療を行ってまいります。

 その他にも排便機能(失禁だけでなく慢性便秘も含みます)を評価する検査法は排便造影、大腸通過時間検査、直腸感覚検査、バルーン排出検査、肛門超音波検査などがあり、当院はいずれにも対応しています。

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 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(086―485―1755)。

 しまむら・ひろし 金光学園高校、岡山大学医学部卒。福山市民病院、水島第一病院、岡山大学病院などを経て、1997年から現職。笠岡市出身。

(2020年11月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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