(上)インスリン注射は痛くない

針が突き出る採血器で指先を刺し、少量の血液で血糖値を測る。手前が血糖測定器

 昨夏、糖尿病と診断された。有病者は全国に1千万人いるといい、その1人になってしまった。糖尿病は生活習慣病なので、その治療には日常生活の改善と病気の理解が欠かせない。必要な知識を学ぶため、川崎医科大学付属病院(倉敷市松島)に10日間の教育入院をした。その主な内容を紹介する。

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 私は57歳男性。昨春の職場の健診で、初めて高血糖を指摘された。慢性すい炎のため定期的に受診している川崎医科大学付属病院で8月に検査をしてもらうと、過去1~2カ月の平均血糖値を示すHbA1cが11・5%、空腹時血糖値は266ミリグラム/dlと出た。正常値(4・6~6・2%、110ミリグラム/dl未満)を大きく超え、一発で糖尿病と診断された。すい臓でつくられるインスリンの分泌が十分ではなくインスリン治療が必要だと、その場で入院を勧められた。

 慢性すい炎の影響で、そのうち血糖値が上がって治療が必要になるかもしれないと覚悟はしていた。その場合でも、最初は食事や運動療法で、そして飲み薬、それでも血糖値がコントロールできない場合にインスリン注射と、ある程度段階があると思っていた。それだけに突然の入院勧告はショックが大きかった。

 ■怖い病気が国民病

 糖尿病は血液中のブドウ糖の濃度が高くなって体の至る所の血管を傷つける病気だ。健康であればすい臓から分泌されるインスリンの作用でブドウ糖は筋肉などに取り込まれて血糖値は下がるが、インスリンの分泌が減ったり働きが悪くなったりすると高血糖の状態になる。

 高血糖の状態が長く続くと、さまざまな「合併症」が起きる。これが糖尿病の大きな問題だ。失明の恐れがある網膜症、悪化すると脚の切断に至る神経障害、最終的には人工透析を余儀なくされる腎症、狭心症や心筋梗塞の原因となる動脈硬化など合併症はいくつもある。さらに、免疫細胞である白血球の働きが悪くなって感染症にかかりやすくなる。最近の研究では、糖尿病患者は認知症や大腸がん、肝臓がん、すい臓がんのリスクも高まるという。そんな怖い病気が“国民病”と言われている。

 ■治療の主役は自分

 教育入院では、糖尿病の基礎知識とインスリン注射を含む薬物療法、食事療法、運動療法、薬と食事などの関係で低血糖の状態になったときの対処法―などを学んだ。

 私のような糖尿病患者にとっての治療目的は、合併症を起こさないよう血糖値を一定の範囲内にコントロールすることだという。血糖値は体調や生活習慣と密接に関係しているので、治療の主役は自分自身。だから十分な知識が必要、と言うわけだ。入院期間中は網膜症や腎症、神経障害、動脈硬化などの各種検査もたくさんした。

 ■動脈硬化が進んでいた

 入院初日から検査は始まった。ほぼ毎日の採血▽指の先を針で刺し、少量の血液で血糖値を測る血糖自己測定▽24時間尿をためて腎機能などを調べる蓄尿▽神経障害についての神経伝導検査▽網膜症の有無を診る眼科検診▽動脈硬化の程度が分かる血圧脈波、頸動脈の超音波検査―などを受けた。

 その結果、網膜症や神経障害は問題なしとされたが早期腎症が見つかり、動脈硬化はかなり進んでいることが分かった。CT検査の結果、心臓の冠動脈の一部に狭くなった所もあった。

 初めてインスリン注射をしたのは入院初日の昼食前。看護師から指導を受け、万年筆を少し大きくしたようなペン型の注射器で、腹部に直径0・2ミリほどの針を刺す。採血に使う注射針よりかなり細く、痛みも感じない、というより、刺さったことが分からないほどだ。注射嫌いの私にとって、このことだけが救いとなった。

(2021年03月01日 更新)

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