(4)膵臓がん早期診断に向けての取り組み 倉敷成人病センター外科部長・患者総合支援センター副センター長 藤山泰二

藤山泰二氏

 膵臓(すいぞう)がんは悪性度が高く、有効なバイオマーカーがないこと、画像診断の感度が低いことなどから早期発見が困難でした。近年さまざまな地域で、病診連携を基軸とした定期的検査による膵臓がんの早期診断のための活動とその有効性が報告されています。

 ■症状

 早期の膵臓がんは症状を認めないことが多く、検診での膵嚢胞(のうほう)や膵管拡張の指摘、糖尿病の悪化などから指摘されることが多く定期的に検診を受けることが大切です。

 ■危険因子

 膵がんの危険因子=図1=としては、年齢、家族性膵がんなどの遺伝的背景、急性膵炎や慢性膵炎、糖尿病や肥満などの生活習慣病、嗜好(しこう)歴(喫煙、飲酒)、検診で指摘されることの多い膵嚢胞(特に膵管内乳頭粘液性腫瘍=IPMN)などが挙げられています。

 ■早期発見への取り組み

 当院では、膵臓がん早期発見プロジェクトとして、専用の診療情報提供書を作成し、近隣の連携病院の先生方と診療に当っております。かかりつけ医の先生は患者さんの病歴や家族歴などをよく把握しておられますので、まずその先生方に臨床症状、家族歴、膵炎の既往の有無、糖尿病、血液検査、エコー検査などで関連する項目をチェックしていただき、陽性項目が認められる場合には当院にご紹介いただき、二次、三次精査を行います。その後は患者さんの検査結果に合わせて、ご紹介していただいた先生と協力し継続した定期的フォローをしていく取り組みです=図2

 ■肝臓病や心血管系疾患、糖尿病で定期通院中の患者さんへ

 早期(ステージ0、1期)膵臓がんの患者さんは、半数以上が他疾患の経過観察中に異常を指摘されたと報告されています。危険因子の中には、糖尿病、喫煙、飲酒、肥満などが挙げられており、これらは肝臓病(脂肪肝炎)や心血管系(動脈硬化)の危険因子とも重なるものです。これらの危険因子を有し病院を通院している患者さんは、膵臓がんにも目を向けて検診をしていただきたいと思います。

 また、糖尿病の新規の発症や急激な増悪時には膵臓がんが発見されることが報告されています。糖尿病を指摘されてから3年以内の膵臓がん発症は50歳以上では実に10倍と報告されています。近医通院中に新規に糖尿病を指摘された場合や糖尿病が悪化した場合には必ず膵臓を検査してみてください。

 膵臓がんは予後不良な代表的な疾患ですが、画像診断の向上、手術手技の改善、有効な抗がん剤の登場による集学的治療の進歩により治療成績は徐々に改善しています。その中で膵臓がんの早期発見は予後向上の重要なポイントです。早期に診断され治療できれば、十分根治が期待できる疾患となってきました。気になることのある方は、かかりつけ医の先生もしくは当院の患者総合支援センターにご相談ください。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 とうやま・たいじ 愛媛県立松山東高校、愛媛大学医学部、同大学大学院卒。京都大学医学部移植免疫学講座、フランス・ボージョン病院での研修、愛媛大学肝胆膵・乳腺外科准教授などを経て2018年より倉敷成人病センター勤務。日本外科学会認定医・専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本肝胆膵外科学会専門医・高度技能指導医・評議員など。

(2021年03月17日 更新)

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