(4)令和時代の大動脈疾患治療 心臓病センター榊原病院心臓血管外科主任部長 平岡有努

平岡有努氏

 全身に酸素を供給した血液は静脈系を介して心臓に戻り、そこで肺から酸素を取り込みポンプ機能で全身に酸素を届ける。大動脈は人間の体内で一番太い血管であり、心臓から起始し、頭部を含めた上半身に血液を送り、背側を通り下半身に血液を送る。大動脈の正常径は4センチ以内であり、それを超えてくると拡大傾向と判断される。

 大動脈疾患は、大きく大動脈瘤(りゅう)と解離に分けられ、大動脈瘤とは径の拡大により瘤を形成した状態である。ガイドラインでは腹部大動脈瘤は男性55ミリ以上、女性50ミリ以上、胸部大動脈瘤は55ミリ以上で侵襲的治療が推奨されている。ただし、急速な拡大や基礎疾患など破裂のリスクが高い方は、このサイズに達していなくても治療が推奨される場合がある。

 大動脈瘤は、それ自体では無症状であることが多いため、大きくなるまで気づかれないこともしばしばある。破裂すると大出血をきたし、致命的になるため胸部レントゲン写真の異常や腹部の超音波、または腹部の拍動性腫瘤の触知などで早めの診断が望まれる。

 一方、大動脈解離は急性発症し、多くは突然の胸背部痛で発症する。これは3層構造をしている大動脈の内側に亀裂が入ることにより生じる。解離の及ぶ場所により治療法が異なり、頭・上肢への血管が出る中枢の解離はA型、それより末梢はB型と診断され、A型は緊急手術になることが多い。

 治療法は、開腹・開胸による人工血管置換と、鼠径(そけい)部の血管からステントグラフトを病変の内側に留置するカテーテル治療がある。

 ステントグラフト治療の発展により、腹部大動脈瘤の多くは開腹せずに治療することが可能になってきた。全ての方に適応になるわけではないが、鼠径部も皮膚切開をせずに2~3ミリ程度の傷で治療が可能である。

 胸部大動脈瘤はその形態や病変の場所により治療法が選択されるが、従来の胸部大動脈の開胸手術は複雑で侵襲が大きいと言える。ただし、開胸手術も進歩により格段に手術成績が向上してきている。

 また、胸部においてもステントグラフト治療により低侵襲な治療が適応となることもある。特に背側を走行する下行大動脈の病変は、ほぼステントグラフト治療に置き換わった。他の領域でも開胸手術とステントグラフト治療の融合であるハイブリッド治療も発展してきている=。今後、さらにステントグラフトが進歩することでより低侵襲な治療が提供できる可能性がある。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 ひらおか・あるど 京都大学医学部卒。心臓病センター榊原病院、米国ペンシルバニア大学クリニカルリサーチフェロー、大阪大学附属病院などを経て2016年から心臓病センター榊原病院外科部長、20年より現職。

(2021年03月17日 更新)

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