(5)放射線治療について 倉敷成人病センター放射線治療科主任部長 矢原勝哉

高度な治療が可能な放射線治療装置

矢原勝哉氏

 放射線治療は、手術・化学療法と並んでがん治療の3本柱の一つとされています。この半世紀で、さまざまながんに対する根治治療(治癒を目指す治療)において、手術に匹敵する治療成績が示されてきています。欧米では、放射線治療は日本より一般的で、多くの国でがんと診断された患者さんの半数以上が放射線治療を受けておられます。

 放射線治療の一番の特徴は、低侵襲で体にやさしいことです。前立腺がんなどは、放射線治療期間中、体に何の変化もなく治療を終了する方もいらっしゃいますし、多くの方は一時的な頻尿(おしっこの回数が増える)のみで治療が終わり、1カ月もたてばほとんどの方が元の状態に戻られます。治療終了後に手術と比べて臓器の機能と形態が保てるため、生活の質を落とすことが少ない治療です。放射線単独治療(抗がん剤などの全身治療を同時に行わず放射線治療のみで行う治療)の場合、時間の都合さえつけば、仕事を続けながら外来で治療を行うことも可能な場合があります。

 放射線治療は、根治治療だけでなく、緩和治療(症状を和らげる治療)としても大きな役割があります。特に痛みを和らげる効果は大きく、根治治療と比べてかなり少ない治療回数で、少なくとも半数以上の方が治療前より良くなったと実感できます。また、がんによっては手術と組み合わせた治療により、治癒率を高めたり、再発率を下げたりする効果が実証されています。

 近年、放射線治療の進歩は著しく、よりがんに集中して放射線を照射し、周りの正常臓器にはなるべく放射線を照射しないようにする機器や技術が普及してきました。当院でもこのような高度な治療が可能な放射線治療装置(リニアック)であるVarian社製True Beamを導入し、対象となる患者さんには強度変調放射線治療(IMRT=Intensity Modulated Radiation Therapy)や定位放射線治療(SRT=Stereotactic Radio Therapy)を行っていきます。このような放射線治療はエックス線を使用する外照射といい、患者さんは治療台の上で横になっておくだけで、体に触れず、通常何も感じることもなく治療を受けられます。

 当院で早期の前立腺がんの治療を受けられる患者さんには、手術や強度変調放射線治療の他、密封小線源治療も選択可能です。密封小線源治療の治療成績は手術や強度変調放射線治療と同等とされています。この治療は、非常に小さな線源(ヨウ素125)を前立腺内に針を使って埋め込む治療ですが、放射線は線源から数ミリしか届かないため、周囲臓器への放射線の影響をより少なくすることができます。

 どのような状態のがん患者さんにとっても、放射線治療がお役に立てることは少なくありません。当院では、「さらに患者さんに寄り添う やさしい医療」をモットーに、多くの患者さんに最新の放射線治療を提供してまいります。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 やはら・かつや 福岡県立福岡高校、産業医科大学医学部卒。産業医科大学放射線治療科などを経て2021年4月より倉敷成人病センター勤務。日本医学放射線学会研修指導者。日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医。日本ハイパーサーミア学会指導医・代議員。医学博士。

(2021年04月05日 更新)

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