(3)高血圧治療は生活習慣の見直しから 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

 わが国の高血圧者数は約4300万人と推定され、生活習慣病のなかでは多い疾患の一つです。収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上を高血圧と診断します。

 2016年の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、高血圧を有する方は40~74歳で男性60%、女性41%で、75歳を超えると男性74%、女性77%の方に高血圧があります。医療機関で治療をしているのは2450万人であると推計されています。

 高血圧があると脳卒中、心筋梗塞、心不全、慢性腎臓病などを引き起こしやすくなります。収縮期血圧を10mmHg、拡張期血圧を5mmHg低下することで、脳卒中で30~40%、心筋梗塞などの冠動脈疾患で約20%、心不全で約40%、合併疾患を減少させることができます。

 今回は高血圧の予防、降圧を見据えた生活習慣の見直しについて述べていきます=。降圧の目標は75歳未満の患者では130/80mmHg(家庭血圧では125/75mmHg)未満、75歳以上の高齢者では140/90mmHg(家庭血圧では135/85mmHg)未満とします。生活習慣の是正だけでは降圧目標を達成することは難しいと思われますが、治療薬剤数や薬の用量を減らすことが期待できます=グラフ

 (1)食事療法

 食塩は1日6グラム未満。カリウムを多く含む野菜、果物の積極的な摂取は、血圧上昇作用があるナトリウムに拮抗(きっこう)的に働き、降圧効果が期待できます。糖尿病や慢性腎臓病で腎機能低下がなければ、積極的に果物をとることをお勧めします。また、肉類の油、バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸や卵類、肝(きも)などに含まれるコレステロールの摂取を控えることが望まれます。

 (2)肥満の是正

 BMIが25以上の肥満の方は、減量によって降圧が期待できます。減量の降圧効果は体重1キロ減少で収縮期血圧は約1・1mmHg、拡張期血圧は約0・9mmHgの低下があると考えられています。肥満では過食のため塩分摂取量が多くなり、インスリンの分泌増加や肥満脂肪細胞からの生理活性物質の増加などによって、血圧は上昇します。摂取カロリー減と運動が減量の基本となります。

 (3)運動療法

 運動療法では体重の減量効果とともに、血圧を下げる働きのある副交感神経が優位となります。運動を続けることで収縮期血圧は2~5mmHg、拡張期血圧は1~4mmHgの低下が期待されます。運動の強さは中等度(ややきついと感じる)とし、有酸素運動である速歩やジョギングをお勧めします。ただ、高血圧の方は心血管疾患のリスクを有する場合があり、運動療法を始める前には「かかりつけ医」の許可をもらってから行ってください。

 (4)節酒・禁煙

 大量飲酒は血圧上昇の原因となりますが、節酒(ビール350~500ミリリットル、日本酒1合、焼酎半合、ワイン200ミリリットル)は逆に降圧効果が期待できます。一方、喫煙は血圧上昇を引き起こします。交感神経の亢進(こうしん)、酸化ストレスの増大、長期的には動脈硬化を進展させることになります。高血圧の方は禁煙をお勧めします。喫煙は高血圧と共に動脈硬化の危険因子です。

 (5)ストレス

 コロナ禍でストレスが多くなっていますが、社会的、心理的ストレスは血圧を上昇させます。また、痛み、睡眠不足、寒冷なども高血圧との関連は強く、日頃の生活の中で避ける配慮が必要です。

 高血圧の治療中の方、生活習慣の見直しにチャレンジして快適な日常生活を送りましょう。

 次回は管理栄養士による生活習慣病の食事療法について言及いたします。



 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 まつき・みちひろ 大分県立大分上野丘高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学大学院修了。同大学講師、准教授、川崎医療福祉大学教授を経て2012年から現職。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。

(2021年07月05日 更新)

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