(1)“衣・食・住・健”の時代へ 倉敷中央病院院長 山形専

倉敷中央病院付属予防医療プラザ

山形専氏

 衣・食・住は人が生きていく上で必須とされています。しかしこれからの人生100年といった長寿社会での生き方の中では、健康でなければ幸福で価値ある長い一生を送ることはできません。なぜなら単に寿命が長くなっても健康寿命が伸びなければ、有意義な人生が伸びたことにはならないからです。

 それにもかかわらず“健”の維持には衣食住ほどの価値が見出されてはいないし、その必要性も感じていないのではと思うことがあります。というのも、衣食住には多くの労力、言い換えればお金をかけることにやぶさかではないが、健康の維持には…と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。うがった見方をすれば、健康はお金や努力をかけて得るものという意識が強くないのかもしれません。

 このような考えは1961年の国民皆保険制度の開始、老人医療費無料化、さらには高額療養費制度など、日本の極めて恵まれた健康保険制度が大きく関わっているように思われます。すなわち医療には、ひいては健康の維持にはお金がかからないといった思いがあるのではないでしょうか。

 確かに現在でもこのような健康保険制度は何とか続いてはいるし、病気になればいつでもフリーアクセスでどこの医療機関ででも必要十分な医療は受けられることにはなっています。

 日進月歩の医療の現状を思った時、こういった医療に対する考え方からもう一歩進めて、もっと今日の医療を有効に利用する時期に来ているのではないかと考えます。すなわち病気になる前、症状の出る以前から自分の健康状態を定期的にチェックし、それへの対策を行う予防医療・先制医療への行動です。

 現在の予防・先制医療は多くの人々が思うより遥かに進んでおり、その価値は以前より格段に上がっています。遺伝情報の解析、バイオマーカーの検出、CTやMRIなどによる画像検査の非侵襲化や高精度診断。そして何よりも診断後の治療法の安全性の確保などの進歩などです。

 健康の維持に必要なのは、疾病の予防と病気の初期段階での治療介入です。病気が進行して症状が出たあとの治療は、たとえ現在可能な最新の医療を施しても満足できる回復が期待できない場合も少なくないからです。

 価値ある人生100年時代を生き抜くためには個々人の身体や生活習慣などに合わせたヘルスケアプランを作成し、それに基づきながら定期的な健診の実施が必要です。

 当院は地域の健康維持への寄与を目的とした健診施設「倉敷中央病院付属予防医療プラザ」を2019年6月に開設しました。本シリーズでは、心臓病や脳神経疾患などの早期発見を目的とした専門ドックや若年者を対象とした遺伝子検査など、健康寿命延伸に向けたトピックスを紹介していきます。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 やまがた・せん 金沢大学医学部卒業。国立循環器病センター、京都大学医学部附属病院、滋賀県立成人病センターなどでの勤務を経て、1996年に倉敷中央病院脳神経外科主任部長、2016年から院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳卒中の外科学会技術指導医。

(2021年07月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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