(2)予防医療の意義 倉敷中央病院付属予防医療プラザ所長 菊辻徹

菊辻徹氏

 血圧が高かった祖母は、突然の激しい頭痛のあと丸2日寝込み、60歳代で帰らぬ人となりました。当時私は小学校入学の直前で、溺愛してくれた祖母が用意したランドセルがぽつんと寂しそうでした。もう遠い昔のことです。

 祖母はおそらく脳動脈瘤(りゅう)の破裂で「クモ膜下出血」を起こしたのです。50年後の現代では、脳動脈瘤があるかどうかはMRI検査で簡単にわかり、必要な場合には破裂しないように先手を打つことができます。

 わが国が誇る皆保険制度のため、「医療」とは健康保険や介護保険など公的補助を伴うものと私たちは考えていて、病気になっても健康保険があるから心配ないと考えがちです。しかし今や、国民の医療費は年々高騰し皆保険制度の存続自体が危惧されています。

 世の中には、あればあるほどうれしいものと、失って初めて大切さに気付くものがあり、「健康」は後者です。コロナ禍でがん検診の受診控えが起きているのも、健康が後回しになるためです。健康の価値は普段の暮らしの中では実感し難いため、成り行き任せになってしまいがちですが、身内や知人に病人が出ると、とたんに不安になったりします。

 現在の健康状態を把握するために、毎年健診を受けて結果をしっかり確認することが基本になります。

 「今年は何とか大過なく過ぎたな、また来年…」となりがちですが、本当に必要なことは、今年の結果を解釈して将来的な問題点をしっかり把握することです。さらに今日の健診・ドックでは、脳や心臓、大腸、骨、遺伝子などで、さまざまな最新の検査を追加することができます。

 それらの検査には公的補助がないため財布は痛みますが、自助努力でリスクを知り、病気を避けて健康寿命を延ばすことが可能になります。長生きしても結局は病気を先送りにするだけとの否定的な意見もありますが、もし当時そのような検査があれば、祖母は私の小学校入学の姿を見ることができたかもしれません。幸せな人生とは、途切れ途切れな小さな喜びを紡いでいくことです。

 「未来を予想する最良の方法は それを創造することだ」。これは、リンカーン元大統領の言葉です。

 疾病の早期発見や生活習慣改善に加えて、将来の健康リスクを知ることで自分の健康をデザインできる時代です。これからは進歩した医療や科学技術を、病気になってからではなく積極的に疾病予防に活用して、ご自身の健康を自分で作り・守ってください。

 次回以降、当院が取り組んでいる予防医療についてご紹介いたします。



 倉敷中央病院(086―422―0210)

 きくつじ・とおる 徳島大学医学部を卒業し、第1外科入局。愛媛県立中央病院、国立高知病院などを経て2007年より倉敷中央病院総合保健管理センター勤務。19年から現職。日本人間ドック学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器外科学会指導医。

(2021年08月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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