(6)人間の尊厳と骨の健康 倉敷スイートホスピタル整形外科医長 原田遼三

原田遼三氏

 人間の尊厳については独自性や自律性などさまざまな考えがありますが、尊厳の保障のため肉体的な機能を保ち続けることも重要と考えられます。

 身体能力がいつまでも若い時と同じであればよいのですが、残念ながらそうはいきません。動きにくい、歩きにくいといった身体機能低下は社会活動性の低下を招き、機能的な面で尊厳の維持が困難となる場合が考えられます。

 医療現場でのお話をしますと、身体機能の低下に伴い介護保険の認定を受けられる原因の多くは認知症で、2番目は脳卒中、そして転倒・骨折が3番目に多い原因となっています(平成28年国民生活基礎調査)。

 仮に転倒しても骨折しなければ良いのですが、身体機能が低下し転倒する方は骨も痩せている、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)である場合が多いです。なんでも無いところでこけたりすることはありませんか? その時に手をついて手首の骨が折れたり、尻もちをついて腰の骨が折れたり、あるいは股関節の骨が折れて歩けなくなったりします。転倒して手術で元通り健康的に歩けるようになる方は半数程度といわれており、予防が第一です。

 骨の健康を高める治療として、これまでは骨が痩せていく程度を弱め、少し骨の量を増やす治療薬しかありませんでした。しかし検査や治療が進歩し、例えば骨に関するビタミンや代謝、骨組みのさび具合、骨の量や質も計測できるようになり、治療選択の幅が広がってきています。治療では注射剤で骨を作る働きを助け、壊れにくくする治療法も選択できるようになってきています。

 しかし実際の治療機会は少なく、骨折して初めて骨粗鬆症と診断された患者さんも多くおられます。まず現時点で治療が必要な状態なのか検査を行い、早い段階で予防治療を行うことが重要です。

 また、骨粗鬆症の程度が強い「重症骨粗鬆症」の場合は、通常の飲み薬ではなく先述の骨をより強くする注射の薬剤を選択します。重症患者さんでも適切な薬剤選択により将来の骨折を予防する効果が高くなり、骨密度を大きく改善できることも知られるようになり、最近では注射の骨粗鬆症製剤を選択使用する機会が増えてきています。

 骨折で来院し、初めて重症骨粗鬆症だと分かる患者さんも残念ながら多くいらっしゃいます。そうなる前に現在の骨の状態を知っていただくことが大事です。お近くの病院、あるいはかかりつけの病院でご自身の骨の状態についてぜひ一度ご相談してみてください。ご自身の尊厳を長く保つため、日常生活機能や生活の質を担保するため骨の健康について考えていただければ幸いです。



 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 はらだ・りょうぞう 大阪星光学院高校、岡山大学医学部卒。津山中央病院、岡山大学病院、鳥取市立病院などを経て2016年から倉敷スイートホスピタル勤務。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医。

(2021年09月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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