創業理念の堅持と自らの変革を 大原記念倉敷中央医療機構 新理事長・浜野潤氏に聞く

浜野潤氏

ブーゲンビリアやマニラヤシなど約20種類の熱帯植物が茂る「温室」。患者や家族らがひとときの安らぎを求めて訪れる。病院に居心地の良さを求めた大原孫三郎の思いが伝わる

大原美術館が若手作家に制作と公開の場を提供する「ARKO(アルコ)」の第1回に選ばれた津上みゆき氏の作品。院内には、あちこちに芸術作品、芸術空間が配置されている

水の流れが涼しげな石敷きの「いずみの広場」。すぐ隣には救命救急センターがあり、大きな事故や災害が起きた場合は治療の優先順位を決めるトリアージの場となる

 倉敷中央病院(倉敷市美和)を運営する公益財団法人・大原記念倉敷中央医療機構の理事長が6月に交替した。35年間にわたって務めた大原謙一郎氏に替わって就任した浜野潤氏(元内閣府事務次官)に、病院運営の基本方針などを聞いた。

 ―1974年に旧経済企画庁に入庁した後、2001年の中央省庁再編では1府22省庁を1府12省庁に半減するという、非常に大きな変革を経験されました。

 経済企画庁では26年間勤め、最後は人事担当課長でした。新設された内閣府では初代の人事課長。役所を閉じるという仕事と、役所を開くという両方の仕事をやりました。大変でしたが、新しい役所を作り上げていくわけですから非常にやりがいはありました。

 役所を辞めた後、ご縁があって大原記念倉敷中央医療機構の理事にしていただき、そこからが倉敷とのお付き合いの始まりです。

 ―倉敷中央病院の印象を聞かせてください。

 世の中に良い病院はたくさんありますが、この病院はちょっと違うなと。病院離れしているというか、アメニティーがあって、すごくいい環境の病院だなと感じました。

 その理由を考えると、創立者である大原孫三郎さん(1880~1943年)の「最新・最高の医学による最良の医療」「患者本位」「病院くさくない明るい病院」などの理念にあると思い至りました。志を継いだ人たちが、時代によって浮き沈みはあったでしょうが、努力を重ねて志を形に変えたといいますか、そこがやはり病院の文化となって現れているようです。

 ―社会を取り巻く環境が大きく変化しています。病院が置かれた状況をどう見ていますか。

 時代はやはり激動期にあると思います。人口減少、高齢化に加え、デジタル化やグローバル化など社会経済が大きな潮流の変化にさらされています。そこに新型コロナウイルスが襲いかかってきました。

 大きな環境の変化に対応するには、創業の理念を堅持しながらも自らを変革する「伝統と革新」が大事です。難しいチャレンジではありますが、病院の皆さんは改革に前向きです。病院全体の発展という、大きな視点から行動している人が多いなと感じています。

 ―病院の経営環境も厳しさを増しています。

 短期的にはコロナ禍によって大きなマイナスの影響を受けています。いつまでこの状態が続くのかは分かりませんが、コロナが収束したとしてもすぐに元に戻るとはいかないでしょう。

 中長期的には、医療制度の持続可能性の問題が挙げられます。高齢化の急速な進展で国民医療費は年々増え続け、国民皆保険の給付と負担のバランスが崩れかけています。医療制度改革関連法が6月に成立し、一定の収入がある75歳以上の患者さんの医療費窓口負担は来年度以降、1割から2割に引き上げられます。患者さんの医療費負担は今後も増す方向に進むでしょう。そうすると受診抑制を招き、経営面では難しい状況が生じます。

 倉敷中央病院は、岡山県南西部における医療の最後の砦(とりで)です。厳しい環境下にあっても、その役割を果たすには土台も含めた抜本的な改革が欠かせません。既に中期経営計画で始めていますが、病院にとって最大の資産であるスタッフと病棟の機能を最大限発揮しようと努力しています。病棟再編や救急医療の体制整備、地域の病院との連携強化も必要です。

 ―5月には、医師の時間外労働の短縮を求める改正医療法が成立しました。

 医療従事者の働き方改革は、病院にとってもメリットは大きいと考えています。当院も段階的に取り組みを進めています。具体的には、自己研鑽(けんさん)の時間と労働時間をきちんと区別するためマニュアルを作ってルールを決めました。このほか、主治医が休みの場合、患者さんにはチームで対応できるようにするとか、いくつかのことを同時並行的にやっています。時間外労働の短縮についても国の目標以上を考えています。

 ―2023年には病院創設100年を迎えます。

 約100年前の1918(大正7)年、世界でスペイン風邪が大流行し、岡山県内では7千人以上が亡くなりました。大原さんは深く心を痛め、病院開設を決意し、23(同12)年に倉敷中央病院は開院しました。

 今では大きく発展し、国際的な医療機能評価機関「ジョイント・コミッション・インターナショナル」(JCI)の認定も受けています。この病院が提供しているのは世界水準の医療です。振り返ってみると、やはり大原さんは100年先が見えたのでしょう。

 医療は基本的にローカルです。地域の人々の生活を良くすることが目的なのですが、そこだけにとどまらず、われわれは世界トップクラスの医療も追究しています。それはすなわち、この倉敷で世界水準の医療を提供するということであり、大原さんの志であるとも思います。

 はまの・じゅん 東京大学卒。1974年経済企画庁入庁。2001年1月の中央省庁再編で、内閣府の初代人事課長、政策統括官、大臣官房長などを経て09年に事務次官。14年に大原記念倉敷中央医療機構理事、15年に大原記念労働科学研究所理事長に就任。大原記念倉敷中央医療機構副理事長を経て21年6月から現職。趣味はクラシック音楽の鑑賞やピアノ演奏、読書など。70歳。東京都出身。

(2021年09月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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