ロボット手術 標準治療に 岡山県内は7病院で導入

手術支援ロボット「ダビンチ」による手術の様子(岡山済生会総合病院提供)

奥谷大介医師

日下信行医師

大谷剛医師

児島亨医師

岡山市立市民病院が導入した「ROSA Kneeシステム」

 手術支援ロボット「ダビンチ」を使った治療が広がっている。米国で開発された低侵襲な高度医療機器で、国内では、2012年に前立腺がんが保険診療の対象になって以降、腎がん、胃がん、食道がん、直腸がん、肺がん、子宮体がんなど多様な領域で症例を積み重ねてきた。今では全国各地の病院で約450台が稼働し、標準治療になろうとしている。

 ダビンチでは、医師は手術台の患者に触れることなく少し離れたコンソール(操作台)に座り、立体画像を見ながら4本のロボットアームを使って執刀する。

 その特長はいくつもある。傷が小さく体に負担が少ないうえ、患部を立体的に捉える3Dカメラの画像は鮮明で拡大もできる。鉗子(かんし)を装着したロボットアームは狭い空間でも自在に操れ、手ぶれがなく精密な動きを可能にする。臓器の機能温存や、合併症を減らせる可能性が高まるという。

 手術には従来から開腹手術、内視鏡を使った腹腔(ふくくう)鏡手術、胸腔鏡手術もある。開腹では胸や腹部を大きく切るため患者の身体的負担は大きい。患部が体内の奥の方にあれば手が届きにくかったり、肉眼では細部まで見えにくい場合もある。腹腔鏡や胸腔鏡による手術ではカメラや鉗子を手で支えているためぶれが起きやすく、鉗子の動きには制限があった。ダビンチは、こうした欠点を補い、より確実で安全な手術を実現するために開発された。

 ただ、ダビンチを操る医師たちは、そのデメリットとして「触感がないこと」を挙げ、「知らぬうちに臓器を傷付ける危険性があるので注意が必要」と指摘する。とは言え、ロボットならではの安定性ゆえに、多くが「精緻な技術が要求される場面でも安心して手術ができる。術者の肉体的な負担も少ない」と言い、今後、標準的な治療になるだろうと予測する。

岡山済生会総合病院 執刀医が語る

 岡山県内では岡山大学病院や川崎医科大学附属病院など7病院でダビンチが稼働している。岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町)は2019年10月に直腸がんでダビンチ治療を導入。20年8月には岡山県内でいち早くすい臓腫瘍に取り組み、今年9月からは肺がんでも手術を始めた。同病院の執刀医に現状を語ってもらった。

肺がん
外科診療部長 奥谷大介医師 空気漏れるケース減


 9月2日、ダビンチによる1例目の肺がん手術を実施しました。岡山大学病院医師の協力を得て、右肺中葉を切除しました。経過は良好で、術後4日目に退院となりました。

 肺のそばには心臓や太い血管があるので出血には非常に気を付けています。いったん出血すれば生命に関わる事態につながりかねません。だから、呼吸器手術チームでは術前の入念な打ち合わせとあらゆる場面を想定したトレーニングを重ねて1例目に臨みました。

 ダビンチによる肺がんの手術では、術後の回復が早く、合併症が少ないと言われます。肺がんは胸腔鏡による手術が主流ですが、胸腔鏡と比べても肺を切除したり縫合したりした部分から空気が漏れるケースは減ったと報告されています。

 手術で最も大切なのは安全確実です。今後も最適な手術が行えるよう努力を積み重ねたいと思います。

前立腺がん
泌尿器科診療部長 日下信行医師 尿漏れ半年6割回復


 2012年に国内で初めてダビンチによる手術が保険適用になったのが前立腺がんです。

 前立腺には命に関わる進行がんから、治療を必要とせず経過観察で天寿を全うできるようなものまで病態はさまざまです。進行はおおむねゆっくりで生存率は非常に高く、早期のがんには根治的な療法として、前立腺と精のうを摘出した後、膀胱(ぼうこう)と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を実施します。

 前立腺は骨盤の奥深くにあり、技術的には難しい手術になるのでダビンチに適していると言えます。手術には開腹、腹腔鏡、ロボット手術とありますが、ダビンチを導入している施設では、その多くをダビンチで行うようになりました。当院では全例ダビンチです。合併症として尿漏れと性機能障害があります。尿漏れについては、当院では半年で6割の患者さんが回復しています。

直腸がん
外科主任医長 大谷剛医師 人工肛門の造設減へ


 直腸は骨盤の一番奥深くの狭い場所にあります。すぐそばには膀胱、前立腺、子宮や膣(ちつ)などがあり、排尿や排便、性機能に関する神経に取り囲まれています。そういう繊細なところで手術しなければなりません。

 ダビンチなら手ぶれがなく、組織の様子がよく見えるので、神経などを傷付けないよう、狙ったところを思い通りに切除できます。結果的に、がんの取り残しがなく、機能障害を減らすことにつながります。

 ダビンチによって、肛門近傍の骨盤の深いところでも、3Dの安定した術野で精緻な手術を行うことができるようになり、肛門を残す手術がやりやすくなりました。ダビンチの鉗子は自在に動くので深いところでの縫合も確実に行え、縫合不全のリスクは減っています。これによって一時的なものも含めて人工肛門の造設が減らせると考えています。

すい臓がん
外科主任医長・肝臓病センター主任医長 児島亨医師 負担小さく予後改善


 すい臓がんは見つかりにくく、がんと診断されたときには大きく広がり手術できない状態の患者さんは少なくありません。手術ができたとしても術後の成績は他領域に比べ不十分です。

 手ごわいがんですが、今は手術だけで治療をする時代ではありません。いろんな治療を組み合わせて、機能温存も図りながら、病気のコントロールを目指しています。

 当院は岡山県内では最も早くダビンチによるすい臓の手術を開始しました。体への負担が小さいので、手術の後に抗がん剤治療などをしやすいというメリットがあります。

 加えて、すい臓は、周辺組織との構造が複雑なため手術の難易度は高く、繊細なテクニックが要求されます。操作性や視覚性に優れているダビンチは、その要求に応えてくれます。予後の改善にもつながると考えています。

人工関節手術 支援ロボ導入 県内初、岡山市民病院

 岡山市立市民病院(岡山市北区北長瀬表町)は、米国製の人工関節手術支援ロボット「ROSA(ロザ) Knee(ニー)システム」を岡山県内で初めて導入した。変形性膝関節症の患者を対象に、8月下旬から人工関節に置き換える手術を実施している。患者一人一人に適した精度の高い治療を提供し、健康寿命の延伸に貢献したいという。

 整形外科の藤原一夫主任部長(人工関節センター長)によると、人工関節手術では、適切な場所と角度で人工関節を設置することが、術後の経過や人工関節を長持ちさせる上で重要になる。従来の手術は、術者の経験や感覚に頼るところが大きかった。骨を切る角度で2~3度の誤差が生じ、術後に膝が痛んだり動きにくかったりする場合があった。

 「ROSA Knee」システムは手術中の手ぶれを抑え、計画通りの場所に的確な角度で人工関節を設置するのをアシストする。周囲の靱帯(じんたい)や筋肉との最適なバランスも数値で提示。快適な社会生活が送れるよう後押しする。

(2021年10月04日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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