診療拠点の役割果たす 岡山大学病院(岡山市北区鹿田町) 前田嘉信院長

前田嘉信院長

岡山大学病院

 ―4月に病院長に就任しました。今の心境は。

 岡山大学病院のポテンシャルの高さを再認識しています。この力を十分に発揮し、日本屈指の診療・教育・研究拠点になるべく、やりがいと責任を感じます。「正しきものは強くあれ」という言葉がありますが、力強く進んでいきたいと考えています。

 ■専門は血液のがん

 ―専門は白血病など血液のがん治療ですね。

 白血病は10人中4人は治る時代になりましたが、それでも半分近い人々が亡くなってしまいます。血液がんの領域でも医学は大きな進歩を見せていますが、今でも難しい病気であることは変わりません。

 この分野を志したきっかけは、医師になって3年目、四国がんセンター(松山市)での研修にありました。新薬を処方した白血病や悪性リンパ腫の患者さんがみるみるうちに良くなり、とてもやりがいを感じたのです。しかし、その一方で医療の限界も知りました。

 岡山大学に帰ってからは、抗がん剤や放射線の治療だけでは治すのが難しい血液がんに対して行う、骨髄移植などの造血幹細胞移植と、その合併症であるGVHD(移植片対宿主病=ドナー由来の免疫細胞が患者の体を攻撃する)の克服に努めてきました。

 ■移植に力

 ―岡山大学病院は中国地方唯一の「造血幹細胞移植推進拠点病院」に認定されています。

 造血幹細胞移植には自分の骨髄を使う自家移植と、他人の骨髄をもらう同種移植があります。当院は同種移植を1995年に始め、今年、同種と自家を合わせて1千例に達しました。年間50例近く、ほぼ毎週のように実施しています。

 造血幹細胞移植は非常に強い副作用や合併症を生じることがある、とてもつらい治療です。従来は、比較的若い人しか体力が持たず、高齢になると移植はできませんでした。今では、患者さんをサポートする支持療法の進化と、抗がん剤の調節がうまくできるようになり、70代でも移植治療ができるようになりました。

 ■免疫療法

 ―そうした造血幹細胞移植で蓄積した豊富な経験をふまえ、最先端の「免疫細胞療法」にも取り組んでいますね。

 当院は中国四国地方で唯一の「CAR―T細胞療法」実施施設です。この免疫細胞療法を、白血病と悪性リンパ腫に対して年間20例ほど提供していて、成果を上げています。

 CAR―T細胞療法は、患者さんから採取した免疫細胞(T細胞)を、がん細胞を認識してピンポイントで攻撃するよう遺伝子操作をした上で患者さんの体内に戻します。造血幹細胞移植ができないような人でもCAR―T細胞療法は提供できます。今後は移植治療をしなくても済む人が増えるかもしれない、画期的な治療です。

 ■診療・研究・教育

 ―病院長として、岡山大学病院をどのように位置付けていますか。

 まず医療機関としては、岡山における最後の砦(とりで)というだけではなく、日本屈指の診療拠点であるべきだと考えています。

 中四国唯一のCAR―T細胞療法実施施設であり、肺移植でも国内有数の実績を上げています。ロボット支援下手術や、心臓や食道疾患などの高難度手術、IVRという画像診断装置を使いながら針やカテーテルを体内に挿入して治療する高度医療も盛んに行っています。

 加えて「がんゲノム医療中核拠点病院」でもあります。患者さんの遺伝子を調べ、どのような薬が効果的なのかを調べる「がん遺伝子パネル検査」で、さらに効率を高める取り組みも行っています。

 研究機関としては「臨床研究中核病院」という、新たな医薬品や医療機器の開発などに必要となる、質の高い臨床研究を推進する中四国唯一の拠点病院です。また、基礎医学から臨床医学につなげる「橋渡し研究支援拠点」でもあります。がんゲノム医療中核拠点病院としての機能と合わせ、これからの革新的医療を生み出す役割があります。

 最後に教育機関として、これまで中四国を中心とした広範囲の医療機関に優れた医師を育成し派遣してきました。その伝統を失うことなく、これからも人格ともに優れた医師、看護師、薬剤師、技師を育成する責任があります。

 ■コロナの影響

 ―新型コロナウイルスの感染拡大時には、他の病院では対処が難しい重篤なコロナ患者を受け入れてきました。

 今回のコロナ禍のように災害レベルに至った場合、各病院は個々に取り組むのではなく、病床の確保や役割分担などで協力し合わなければ大きな荒波は乗り越えられません。協力態勢をいかに効率よく、早期に構築できるのかが大切だと感じました。

 一方、コロナ禍によってどの病院も経営が非常に圧迫されています。収束後も、このままだと経営が成り立たないのではないかという危機感はあります。医療ニーズに応じた規模の適正化など、さまざまな議論がなされるでしょう。そうした議論は、当院であっても例外ではありません。

 ■患者のために

 ―病院長は岡山大学病院の基本姿勢として「患者さんのために」「医療・保健の発展のために」「自己ではなく社会のために」―を挙げています。

 岡山大学病院には、先ほど言ったように「診療」「研究」「人材育成」の三つの機能があります。いずれにしても、その根底にあるのは、まずは「患者さんのため」であり、「医療・保健の発展のため」であり、「社会のため」でなければなりません。どんなに医療が優れていても、そういう気持ちがない医療人は、信頼や尊敬を得ることはできないでしょう。

 厳しい時代ではありますが、岡山大学病院が果たすべき役割に誠実に取り組み、社会の変化にも柔軟に対応しながら、大学病院ならではの社会貢献を追求していきたいと思います。

 まえだ・よしのぶ 岡山大学医学部卒。国立四国がんセンター、愛媛県立中央病院などに勤務した後、米国ミシガン大学留学を経て、岡山大学病院血液・腫瘍内科講師、2017年7月に同大学大学院教授。専門は血液・腫瘍学。副病院長を経て21年4月に岡山大学病院長就任。趣味は学生時代から続けるスキーや海外の美術館巡り。最近は「無心になれる庭の手入れ」にもいそしむ。好きな言葉は「至誠にして動かざるものは、未だこれ有らざるなり(孟子)」。兵庫県姫路市出身。53歳。

(2021年10月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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