第7回「脳卒中」

八木田佳樹教授

宇野昌明教授

 脳卒中が起きたら大変だ。場合によっては命を落とすこともあるし、脳の機能の一部が壊れてしまうので、手足が麻痺(まひ)したり、うまくしゃべれなくなったりする。予防するには脳卒中の正体を正しく知り、生活習慣を改めることが大切だ。川崎学園特別講義の第7回は、川崎医科大学脳卒中医学の八木田佳樹教授と、同大学脳神経外科学1の宇野昌明教授に脳卒中の概要と対策、最新の治療法について話を聞いた。

「脳卒中とは」 川崎医科大学脳卒中医学 八木田佳樹教授

 脳卒中は、脳血管障害のうち急性に神経症状を来す疾患で、片方の手足が麻痺(まひ)したり言葉がしゃべれなくなったり、意識を失ったりします。日本人の死因としては4番目に多く((1)がん(2)心臓疾患(3)老衰)、寝たきりの原因1位です。虚血性の脳梗塞と、出血性の脳出血・くも膜下出血があります。

 ■7割占める脳梗塞

 発症は脳梗塞が多く、岡山県内では脳卒中の7割ほどを占めています。脳の血管が詰まって、その先に血液が流れなくなって細胞が壊死(えし)し、さまざまな障害が生じます。その詰まり方によってラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症に分類できます。

 ラクナ梗塞は、主に高血圧にさらされることで、脳の奥の細動脈が次第に傷んで急性に発症します。小さな梗塞が本人も気づかないうちに複数起きる場合もあります。

 アテローム血栓性脳梗塞は、脳内や首の比較的太い血管で動脈硬化が進行し、膨らんだ血管壁のため血流が妨げられたり、剥がれた血栓が脳の奥の血管を詰まらせて生じます。動脈硬化による脳血流の低下はじわじわ進むので、脳の方も頑張って別の血管から血液を送ったりします。ただ、高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあると頑張れなくて大きな脳梗塞になり、寝たきりになる人がいます。

 心原性脳塞栓症は、心房細動などによって心臓内にできた血栓が脳内血管まで流れて閉塞させます。太い血管が詰まるので被害は甚大です。言葉がしゃべれなくなったり目が見えなくなったりすることもあります。どの部分の脳機能がやられるかによって症状は大きく違ってきます。

 ■危険なくも膜下出血

 出血性では、くも膜下出血は危険なタイプで、発症者の3分の1が亡くなるといわれています。3分の1は後遺症なく社会復帰できます。くも膜下出血は2回目、3回目が起きることがあり、そのたびごとに重症度が上がっていきます。

 昭和40年、50年代に多かった脳出血は、そのほとんどが高血圧が原因です。今では降圧薬がいくつも開発されて血圧コントロールが良くなり、脳出血を発症しても、すぐに亡くなるような重症は少なくなりました。国民が高血圧に気を付けるようになったことも大きいと思います。

 ■日常生活が大切

 脳卒中には血圧や血糖値、コレステロールなどが深く関与しています。ですから食事療法を中心とした日常生活の中に対応のポイントがあります。

 食べ過ぎや飲み過ぎ、喫煙、食塩のとり過ぎ、油たっぷりの料理には気を付けてください。カロリーの高い食品はコレステロールや中性脂肪を増やし、動脈硬化を促進させます。

 ウオーキングや体操など適度な運動が大切です。運動不足は良くありませんが、過度な運動も体に良くありません。動脈硬化や心疾患が進んだ人が急に運動をし始めると、脳卒中や心筋梗塞などを招くきっかけとなることがあるため注意が必要です。

「最新治療」 川崎医科大学脳神経外科学1 宇野昌明教授

 脳卒中治療は時間との闘いです。高い専門性も必要とされます。一度障害された神経細胞は元に戻りません。治療が遅れるとそれだけ死滅する脳細胞が増え、命は助かっても重い後遺症が残ります。いかに早く専門スタッフと設備がある病院を受診し、治療を始めるかが鍵となります。日本脳卒中学会は、24時間365日患者を受け入れる施設として「一次脳卒中センター」を認定していて、岡山県内では13施設あります。

 ■内科的、外科的治療

 脳梗塞には、発症から4・5時間以内であれば「t―PA静注療法」を考えます。脳の組織が決定的に傷む前に特殊な薬剤で血栓を溶かして動脈を再開通させる内科的な治療です。4・5時間のタイムリミットは、それを過ぎて薬剤を注入すると出血の危険があるからです。発症時間が不明でも、MRI画像で大きな梗塞がないと専門医が判断した場合は実施します。

 外科的治療としては、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤(りゅう)破裂に対する脳動脈瘤ネッククリッピング術、脳の奥の細い血管が破たんした場合の脳内血腫除去術などがあります。

 頸(けい)動脈に脂肪や血の塊ができたアテローム血栓性脳梗塞には、頸部血管を切開し、血栓が飛んでいかないよう脂肪などの塊を取り除く頸動脈内膜剥離術を施し、再発予防を図ります。

 ■血管内治療

 血管内治療は脚の付け根などの動脈から細い管(カテーテル)を入れ、血栓を取り除いたり血管を広げたりします。患者さんの負担は小さく近年大きな進歩を遂げていますが、対応できる施設は限られています。

 大きな血管が閉塞している脳梗塞で、発症6~16時間以内であれば機械的血栓回収術が行えます。閉塞部位までカテーテルを延ばし、血栓をステント(金属の網)や吸引カテーテルで回収します。

 アテローム血栓性脳梗塞で、頸動脈内膜剥離術ができない症例には頸動脈ステント術を行います。狭窄(きょうさく)部位でステントを拡張させ、血管を広げる治療です。

 脳動脈瘤に対する血管内治療としてコイル塞栓術があります。脳動脈瘤の内部に細いマイクロカテーテルを挿入し、コイルで埋めて破裂しないようにします。

 ■再発予防

 日々の生活の中で、脳卒中を起こす危険因子をコントロールする、あるいは治療することが大切です。

 危険因子には、高血圧▽糖尿病▽脂質異常症▽喫煙▽大量飲酒▽心房細動▽睡眠時無呼吸症候群▽慢性腎臓病―などが挙げられます。いずれも自覚症状がないので、おざなりになりがちですが、発症したり、再発してしまえば取り返しは付きません。

 再発予防の第1は血圧の管理です。慢性期には家庭血圧を135/85mmHg未満にコントロールすることが重要です。食事や運動療法で改善されない場合は降圧剤を服用すべきです。勝手に中断したり、薬を減らしたりしてはいけません。

(2021年12月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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