(1)心不全パンデミック? 岡山西大寺病院副院長 井久保卯

井久保卯氏

 “パンデミック”と聞いたらまず新型コロナが頭に浮かびませんか? 一般的には、パンデミックとは感染症の世界的な大流行を意味します。

 ところで高齢化の進む日本では今後心不全が爆発的に増えることが予想されています。実は4、5年前より専門家たちはそのことを警告しており、“心不全パンデミック”という言葉が使われています。

 心不全の患者さんは毎年約1万人ずつ増加しており、2035年にピークになると言われています。これは団塊世代が80歳代後半に入る時期です。心不全パンデミックに陥ると入院が必要な心不全患者さんであふれ、いわゆる医療ひっ迫が起こる可能性があります。この状況を防ぐ第一歩は心不全を理解することだと考えます。

 【定義】

 『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』です。すなわち高血圧や狭心症・不整脈などの心臓の持病のために心臓のポンプの働きが弱った状態です。

 【症状】

 心不全の主な症状は図の通りです。その中の二つを説明します。

 ・食欲低下 心不全では全身に酸素や栄養が十分に供給できません。中でも筋肉は酸素を多く必要とするので心不全の時は軽い運動でも苦しくなります。胃腸も筋肉を使って働いています。酸欠状態ではその機能が低下し、その結果食欲低下となります。注目すべきはこの症状は他の心不全症状より早期に出現することです。逆に言えばご飯がおいしかったら心臓はまず大丈夫です。

 ・浮腫(むくみ) 心不全以外でも浮腫の原因はたくさんあります。しかし心不全では必ず体重増加を伴います。それも数日間で2~3キロ以上増えます。この体重増加を伴う浮腫も心不全の早期に出現します。まず普段の自分のベスト体重を知っておいてください。そしてもしも足の腫れに気付いたら体重を測ってみてください。

 【検査】

 心不全の検査の代表は心エコー(超音波検査)とBNP(またはNT―proBNP)の二つです。

 心エコーでは心拡大/心肥大、収縮能低下/拡張能低下、心弁膜症の有無など心不全に関する非常に多くの情報が得られます。その上絶食不要で侵襲のない優れた検査です。BNPは症状が出る前の心不全予備軍の段階で異常を認めます。血液検査ですからどこの医療機関でも測定可能です。

 心不全は古くて新しい病気と言われており、世界中で日夜研究が続けられています。日本では2018年に医療現場でとても役立つ「心不全診療ガイドライン改訂版」が出版されました。またこの2年間で、新しく4種類の心不全の治療薬が使用できるようになりました。医療の進歩と心不全に対する理解の浸透で“心不全パンデミック”を何とか食い止めましょう。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 いくぼ・しげき 岡山朝日高校、岡山大学医学部卒。岡山赤十字病院、鳥取市立病院、呉共済病院などを経て2015年4月より現職。日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、岡山大学医学部医学科臨床教授、日本DMAT隊員。

(2021年12月06日 更新)

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