透析医療半世紀 技術向上、経済負担軽く

1970年代の血液透析の様子(岡山中央病院提供)

1980年代の透析センター(岡山中央病院提供)

森岡茂透析部長(左)と、横山晃一透析センター運営管理者

岡山中央病院の透析センター。間仕切りで仕切り、ゆったりとした個人空間を確保している

岡山中央病院透析センターの特別個室。同センターには特別個室が4床、感染症対応の個室が3床ある

 腎臓が機能不全となった患者の命をつなぐ人工透析が国内で始まり半世紀が過ぎた。当初は透析装置が足りず、経済的な負担は重く、限られた人しか受けられなかったが、今では必要とする人は誰でも透析医療が受けられる時代になった。苦痛も大きかったが、医療技術は向上し合併症の研究も進んで患者の身体状況は改善された。しかし、週に3回、半日かけての通院が必要だったり、水分や食事の制限があるなど、いくつもの制約を受けながら生活している実情は変わらない。

 腎臓は生命維持に欠かせぬ役割を担っている。血液をろ過して余分な水分や塩分、老廃物(尿毒素)などを取り除き、尿として排せつする。血圧をコントロールし、体液を弱アルカリ性に保つなど体内の恒常性を維持している。赤血球の生成を促したり、ビタミンDを活性化させて骨の強度を保つ役割もある。

 その腎臓の機能が低下し、腎不全の状態が進むと意識障害や呼吸困難など、さまざまな尿毒症の症状が現れる。透析医療や移植手術を受けない限り死は避けられなくなる。

 国が人工透析(血液透析)の必要性や有効性を認め、医療保険の適用としたのは1967年。毎年1万人ほどが腎不全で亡くなっていたとも言われる。ただ、人工透析はさまざまな意味で過酷な治療だった。

 全国腎臓病協議会(全腎協)などによると、当時、先端技術だった透析装置は国内にわずかしかなく、透析を必要とする多くの患者には対応しきれなかった。治療を受ける順番を待っている間に何人もの患者が亡くなった。保険適用とはなったものの医療費は高額で、自己負担分を払えずに透析を諦めたり、中断する人もいた。

 透析できたとしても、1回の治療に約8時間かかるなど時間的、身体的な負担は大きかった。透析中、頭痛や吐き気を覚えたり意識を失う人もいた。多くが貧血となり、C型肝炎など感染症の危険性も高かった。透析医療は確立されておらず、患者の容態を見ながら手探りの状態だったという。

 そうした時期を経て、透析を取り巻く環境は大きく変わった。71年に組織された全腎協は、透析患者が安心して医療を受けられるよう全国的に運動を展開。72年には身体障害者福祉法に基づく更生医療が人工透析に適用された。自治体の助成なども始まって患者の経済的負担は大きく軽減した。

 半世紀を経る中、透析装置の性能も向上した。血液中の毒素を効率よく除去できるようになり、身体的な負担は軽減。透析をしながら旅行やスポーツを楽しむ人も増えた。

 それでも透析患者がさまざまな制約を受けていることは今も変わりはない。血液透析は週に3回、1回4時間以上かかり、食事や水分制限などの治療上の制約もある。透析を始めて5年という岡山市内の70代の男性は、食品添加物が入っている加工食品は避け、塩分は1日6グラム以下に。「心臓に負担がかかるから」と水分を控え、体重が増えないよう気を付けている。「いつまで透析を続けるのかとは思うが、おかげで仕事もできている」と言う。

 合併症の身体的、精神的な負担もある。透析患者はホルモンやミネラルバランスが崩れ、心不全など心血管疾患の危険性は高くなる。貧血や透析アミロイドーシス、副甲状腺機能亢進(こうしん)症などは日常の活動性を損なう。気分が落ち込み心の問題に悩む患者も少なくない。必要であれば誰でも透析医療を受け、生き続けられる時代になったが、さまざまな困難も抱えている。

 日本透析医学会や全腎協の資料によると、国内の透析患者は2019年末で34万4640人、平均年齢は69歳。05年に透析を始めた患者の10年生存率は約36%。血液透析患者の実態調査(16年度)では、65歳未満で何らかの仕事をしているのは男性で6割、女性で3割ほどとなっている。

 透析医療 血液を体内から取り出し、ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓を通して老廃物などを除去する血液透析と、体内の腹膜を利用して血液を浄化する腹膜透析がある。現在、国内の透析患者の97%が血液透析を受けている。

全床でオンラインHDF 岡山中央病院 森岡透析部長、横山透析センター運営管理者に聞く

 国内でも早い段階から透析患者を受け入れてきた岡山中央病院(岡山市北区伊島北町)は、開院翌年の1957年に腎研究部門を設け、血液透析が保険適用された2年後の69年に透析センターを開設した。昨年11月には新棟建設を機に透析センターを刷新。透析ベッドは80床に増やし、密を避ける形で間仕切りを置いて、個人の空間を確保した。より多くの老廃物を除去できる「オンラインHDF」を全床に導入し、患者の症状改善に取り組んでいる。透析部長の森岡茂医師と、透析センター運営管理者の横山晃一さん(臨床工学技師)に話を聞いた。

     ◇

 ―透析医療をめぐる合併症について教えてください。

 森岡 腎臓の機能が著しく落ちると、赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンが作られなくなって貧血になります。以前は輸血が欠かせませんでしたが、平成に入ってすぐ、注射薬のエリスロポエチン製剤が登場しました。患者さんの貧血症状は改善し、顔色も良くなりました。最近は手軽な内服薬(HIF―PH阻害薬)も使えるようになっています。

 透析が長期にわたると、透析アミロイドーシスが問題になります。β2ミクログロブリンという毒素が分解されずに骨や関節などに沈着し、アミロイドという異常なタンパク質に変化し、さまざまな機能障害を起こすのです。手足の関節が痛んだり、病気が進行すると頸椎(けいつい)、脊椎が破壊されたりします。脊柱管の神経が圧迫され、脚の麻痺(まひ)や歩行障害などが生じます。車いすや寝たきりの生活になってしまうのです。

 透析アミロイドーシスは現在の透析医療でも克服できていませんが、原因物質であるβ2ミクログロブリンを少しでも多く除去しようと、さまざまな工夫がなされています。

 ―50年前と比べて透析装置(ダイアライザー)は大きく変わりました。

 横山 ダイアライザーの心臓部分である透析膜の素材は進化し、体内の毒素や老廃物を除去する能力が向上しています。2012年から保険適用になったオンラインHDF(血液透析ろ過)は透析アミロイドーシスに有効だと考えられています。

 オンラインHDFは、血液透析(HD)と血液ろ過(HF)の利点を併せ持った透析法です。通常の血液透析ではあまり除去できない、β2ミクログロブリンなど比較的大きな物質の除去を得意とします。当院の透析センターは全80床でオンラインHDFに対応できます。

 森岡 さらに、リクセルという吸着膜があります。これをオンラインHDFと組み合わせると、透析アミロイドーシスの症状改善に結びつくという研究報告が出ています。これを活用して、患者さんが少しでも元気になってくれればと思うのですが、保険適用となっているのは血液透析との組み合わせで、今はまだオンラインHDF+リクセルは難しい状況です。

 ―岡山中央病院では30年ほど前から運動療法に取り組んでいますね。

 森岡 岡山大学第三内科におられた高橋香代先生(現・岡山大学理事)の指導で1989年から運動療法を取り入れました。当時は音楽に合わせて体操などをしていました。すると、何年も入院している患者さんの中から調子が良くなって「自宅に帰る」と言い出す人が出てきたのです。今では運動した方が良い影響があると明らかになっていますが、当時は「安静第一」でした。高橋先生の先見の明です。「元気になったから自宅に帰ります」。こう言ってくれると、とてもうれしくなります。

 横山 患者さんには長く元気でいてほしいです。5年後、10年後に「ここで透析をしていて良かった」と言っていただけたらと思っています。

(2021年12月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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