第8回「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」

小賀徹教授

友田恒一教授

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者は国内におよそ530万人で、60代の8人に1人、70歳以上の6人に1人と言われる。タバコを長年吸い続けたために起きる病気だ。重症化すると息ができなくなって、とてもつらいという。坂道や階段などで息切れを感じているとしたら、専門医を訪ねて検査をしてもらったほうが良いかもしれない。早い段階で治療を始められたら、その後の生活への支障は減らせるという。川崎学園特別講義の第8回は、川崎医科大学呼吸器内科学の小賀徹教授と、同大学総合内科学1の友田恒一教授に、COPDの概要や治療について話してもらった。

「COPDとは」 川崎医科大学呼吸器内科学 小賀徹教授

 COPDは、タバコの煙を主とする有害物質を長期にわたって吸い込むことで発症する肺の疾患です。喫煙歴が20年以上ある人は要注意です。

 世界保健機関(WHO)によると、COPDは世界の死因の第3位です(2019年)。日本の潜在患者数は約530万人、40歳以上の有病率は8・6%と推測されます。「肺の生活習慣病」とも言えますが、治療を受けている人は1割ほどもいません。

 ■息が吐けない病気

 COPDは、気管支など気道の慢性炎症(慢性気管支炎)と、気管支の先端にある肺胞が壊れる気腫性病変(肺気腫)が複合的に作用して起こります。

 慢性気管支炎は、気道の壁に炎症が起きて粘液が過剰に分泌され、やがて壁が厚くなって気道が狭くなり、空気が通りにくくなったり詰まったりします。

 肺胞はごく小さな風船のような組織で、毛細血管に覆われ、酸素を取り込んで二酸化炭素を排出するための「ガス交換」が行われています。肺気腫では、その機能が失われていきます。

 COPDによって気道は狭くなり、壊れた肺胞は伸縮性を失い空気を吐き出せなくなります。吐き出せないから次の空気が吸えません。当然、息苦しさが生じます。残った空気は少しずつたまり、肺は過膨張してパンパンになります。息苦しさは一日中とまらず、とてもつらいものです。

 肺の過膨張により心臓は常に圧迫され、心血管障害になる可能性が高くなります。また、COPDの患者さんは肺がんや肺炎にもなりやすくなります。

 ■認識不足、過小評価

 問題なのは治療を受けている人がとても少ないことです。死因は世界3位と言いましたが、日本では十数位でしかなく、大きなギャップがあります。その背景には、医療従事者も含めてCOPDへの認識不足、過小評価があります。

 初期の主症状は、運動や作業をしたときなどの息切れや咳(せき)、痰(たん)などで、特徴的と言えるような症状はなく、喫煙や加齢、風邪の影響かと勘違いして受診に結びつきにくいのです。喘息(ぜんそく)との鑑別が困難な場合もあり、受診していても医師がCOPDを見落とすケースが少なくありません。

 ■呼吸機能検査が必須

 COPDの診断には「スパイロメトリー」という呼吸機能の検査が必要です。ところが、健康診断や医療機関で、この検査が十分に実施されているとは言えません。健康診断に組み込まれている胸部エックス線写真では、COPDの特異的な所見は現れません。

 スパイロメトリーでは、1秒間にどのくらい息を吐き出せるかを調べます。性別、年齢、身長から算出した標準値と比べ、吐き出した量に応じてCOPDの軽症、中等症などの重症度が分かり、治療方針も立てられます。

 1日20本のタバコを20年以上吸い続けている人の7、8人に1人はCOPDになると言われます。一度は専門医の検査を受けてもらえればと思います。

「治療と悪化予防」 川崎医科大学総合内科学1 友田恒一教授

 日本呼吸器学会が出版したCOPDの「診断と治療のためのガイドライン(第5版)」には、管理目標として「現状の改善」と「将来リスクの低減」の2項目が掲げられています。

 ■早期治療で改善も

 現状の改善には、(1)症状およびQOL(生活の質)の改善、(2)運動能力と身体活動性の向上および維持が挙げられています。

 現状の改善で最も大切なのは、主症状である呼吸困難感です。息切れや息苦しさが少なくなれば運動能力や身体活動性が向上し、QOLの改善につながると考えられます。

 COPDは息を吐くことができず息苦しさを覚える慢性の呼吸器疾患です。なので吐きやすくするために気管支拡張作用をもつ吸入薬(抗コリン薬、交感神経刺激薬)などを使います。

 COPDの重症度は、呼吸機能に応じて軽症、中等症、重症、最重症の4段階に分けられます。できるだけ早期から、最も呼吸機能が低下するとされる中等症までに治療を開始し、それ以上の進行を食い止めることが重要です。呼吸機能は一度損なわれると元に戻らないと言われていましたが、今では良い薬剤が開発され、患者さんによっては改善が見られます。

 ■禁煙は必須

 もちろんCOPDの主たる原因は喫煙ですので、禁煙は最も大切で確実に効果が期待できる治療法の一つです。どうしても禁煙できない場合は病気だと思って、禁煙外来の受診を考えてみてください。中等症までに禁煙すると日常生活に支障をきたさない程度にとどまると考えられています。

 薬剤以外にはリハビリテーション、在宅酸素療法、栄養療法などがあります。呼吸リハビリテーションは息を吐きやすくするため、腹筋を生かした腹式呼吸を習得することが主なトレーニング内容になります。

 血中の酸素濃度が低下して呼吸困難感が増悪し、日常生活に支障をきたすまで進行した場合には在宅酸素療法の適応となります。

 ■脚の筋力維持が重要

 将来リスクの低減には(1)増悪の予防、(2)全身併存症および肺合併症の予防・診断・治療が挙げられます。

 増悪の予防において最も大切なことは感染症に対する各種ワクチン接種です。新型コロナ、インフルエンザ、肺炎球菌の各種ワクチン接種が重要です。

 またCOPDは肺だけにとどまらず、さまざまな病態を併存する全身性疾患としても知られています。特に重要なのが栄養障害や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、手足の筋力が低下する骨格筋機能障害です。

 これらの障害はサルコペニア(加齢による筋肉量減少や筋力低下)と密接に関連し身体活動性を低下させます。息切れがして動きにくければ筋肉は落ち、さらに動けなくなる悪循環に陥ります。そのうえ骨がもろくなって骨折すれば寝たきりになってしまいます。

 こまめに動ける人は呼吸状態が少しくらい悪くてもQOLが保たれるといわれます。なるべく動いて、特に脚の筋力を維持することが重要です。間食や夜食も含めてしっかり食事をとって、栄養不足にならないよう努めてください。

(2022年01月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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