(6)人も病も季節の習わしと共に 生活場面含め治療考える

3世代同居、女の子が2人いる若夫婦の雛飾り

 Nさんは戦前生まれの83歳。厚生労働省の簡易生命表によると、平均余命は7・69歳あるので、まだまだ元気でいていただかなければなりません。最近はデイサービスにも通われ、食事もおいしいとのことです。

 去年の晩夏、近所の方から「車庫の前で倒れている」と連絡が入り、救急隊を要請すると共に、看護師さんと一緒に駆け付けた患者さんでした。声掛けに返事はあるも朦朧(もうろう)とした状態、四肢の力も入らず、同時に到着した救急隊にて搬送していただきました。

 翌日、奥様の情報では、入院先で検査異常もなく脱水症だったかと。短期入院で退院されました。

 ひと月後の来院時、背中から四肢も含めて全身性の発疹、掻(か)きむしった痕から出血するほどです。お尋ねすると4年前の夏にも意識消失のエピソードで別の病院での入院歴があり、集中治療室に入った後に皮疹が出現したと。

 「薬疹?」―。薬によって起きる発疹で、重症化もあります。免疫が過剰に刺激されたり、治療後に異常な再構築が生じる可能性もありで、まずは採血検査です。免疫細胞の一つ、T細胞が慢性的に異常活性化していました。知己の皮膚科医伝授のレシピで軟膏(なんこう)を。危惧した重症薬疹ではなく、次第に色が薄まりました。介護と医療の両輪で半年近く、今は快活になられています。皮疹も痒(かゆ)みはほぼなく、T細胞活性化の指標も基準値に入りました。

 糖尿病もあるので、内服治療薬を開始しました。お餅が好物とのことですが、個数制限があります。申し訳ないです。

 お子さんたちも来院します。相前後して受診された小学3年生の女児Eちゃん。前日は37度台の熱があり、喉が痛いとのこと。診療所の裏、自家用車内で新型コロナとインフルエンザ、両ウイルスを同時に調べる抗原定性キットで検査をします。おばあさんと一緒の彼女は、白衣を見ただけで眉間に皺(しわ)、マスクの上から鼻を両腕で強力に押さえ、涙も流して検査拒否です。看護師さん、おばあさんの協力で、なんとか検体を採取。10分後には陰性が判明しました。続いて喉の診察。今度は素直に大きな口が開きました。頬の涙の跡も乾き始めていました。

 赴任して間もなく1年。高齢の方々は、いろんな状態で受診され、そのつど、多様な病態の可能性を鑑みながら診断と治療に努めています。ご夫婦2人暮らし、時に村内の施設に短期入所をされる方、独居ながら村内にお子様がいらっしゃる方など、治療はその生活場面も含めて考えます。

 小中一貫の新庄学園や保育園に通う新庄っ子たちも、時には調子を崩します。嘔吐(おうと)下痢が続いたり、咽頭痛の子たちが連なったり。兄弟姉妹も多くいて、保育園などと連絡を密にしながら、地域で育てる子どもたちを、医療面で支えていこうと努力しています。

 この時季にはいくつかのご家庭で雛(ひな)飾りが見られます。子どもの健やかな成長を願っているのでしょう。

 京都・福知山で医院を開業していた亡き父は俳人でもありました。

 「往診やそのまま雛の客となり」

 山間の村での診療は、今も当時も変わりません。

 では、恥ずかしながら、私も一つ、冬の句を。

 「土間暗く雪靴ならびゐる患家」

(2022年03月07日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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