もしかして骨盤臓器脱? 恥ずかしさから治療遅れるケースも

図1

図2

内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」

図3

 「股に何か下りてくる感じがある―」。心当たりがある方、もしかしたら骨盤臓器脱かもしれません。骨盤臓器脱は、子宮、膀胱(ぼうこう)、直腸などが膣(ちつ)外に出てしまう疾患。女性なら誰でも起こりうる疾患ですが、恥ずかしいといった理由で治療が遅れてしまうケースも。倉敷成人病センターでは、11 月から毎週火曜日の午後「女性のための骨盤底外来」を女性診療フロアでスタート。同外来の女性泌尿器科・有地直子先生に話を聞きました。(「さりお」2021年11月12日号から転載)

女性ホルモンの減少が原因
出産経験のある4割の女性が
「骨盤臓器脱」という報告も


 女性の骨盤内にある子宮、膀胱、直腸といった臓器は、筋肉、靭帯(じんたい)、膜などが組み合わさった「骨盤底」と呼ばれる組織で支えられています。

 骨盤底がゆるみ、この支えが不安定になることで発症するのが「骨盤臓器脱」です。子宮や膀胱、直腸が膣から垂れ下がってくる病気です。

 お餅を焼くと表面の弱いところがぷくっと膨れてくるのを想像してみましょう。女性の骨盤に話を戻すと、弱い膣がぷくっと膨らみ、そこに子宮や膀胱、直腸が垂れ下がってくるイメージです(図1)。それぞれ子宮脱、膀胱瘤(りゅう)、直腸瘤と名前が付けられています。

 60歳代半ばから女性ホルモンが減少し、骨盤周囲の組織が弱ってくることが原因で、出産経験のある女性の4割に見られるという報告もあります。

 骨盤臓器脱の患者さんに最もよく見られる症状は、「入浴中、お風呂でピンポン玉のようなものが股間に触れる」というもの。朝は何も感じなくても、仕事や家事など活動をすることで、夕方にかけて臓器が垂れ下がってくるのです。放っておくと、尿や便が出にくくなることも。それでも、何カ月も我慢した末に受診される方が大半です。

 「おしっこ」や「おしも」のことはデリケートな問題なので、家族にも相談できず一人で悩み続ける人が多く、結果として受診の遅れにつながっているように感じます。また、病気の認知度が低く、どこの病院の何科を受診したらよいのか分からないという声も聞かれます。

 倉敷成人病センターでは11月から毎週火曜日の午後「女性のための骨盤底外来」がスタート。医師、看護師、理学療法士らでチームを編成し、「おしっこ」や「おしも」にまつわる疾患「骨盤臓器脱」「尿失禁」などで苦しんでいる女性を、女性診療フロアで診察しています。

根本的治療は手術
ロボット支援下手術も


 骨盤臓器脱が初期の段階なら、股の部分を引き上げる専用の下着を着用したり、膣に専用の装具を入れて臓器の垂れ下がりを防いだりする方法もありますが、根本的な治療は手術です。

 辛抱できなくなるまで我慢した状態で来院される方が多く、最初から手術を勧めるケースが多いように感じます。

 倉敷成人病センターでは2016年から腹腔鏡下仙骨膣固定術を開始し、2020年4月にロボット支援下手術が保険適応されたことを受けて、ロボット支援下手術も導入しています。

 手術件数は年々増加傾向にあり、昨年度は164人の患者さんが手術を受けています(図2)。最近では県外からの方も増えつつあります。

 いずれの手術も、おなかに小さな穴を4つ開けて行います。膣の前後にメッシュを挿入する手術で、弱くなった膣の壁をメッシュ=図3が補強するというもの。全身麻酔で手術時間は3時間ほど。手術翌日から食事をしたり歩いたりでき、入院期間は1週間程度です。

 手術後は「もっと早く手術をしておけばよかった」と言われることが多く、外出する機会が増え家族や友人との旅行や食事が楽しくなったという声が寄せられます。中にはグラウンド・ゴルフなどのスポーツを再開する人もいます。一人で悩まず医療機関を受診して健康的な中高年ライフを取り戻してほしいですね。



 倉敷成人病センターは、女性泌尿器科の看護師による相談電話を開設している。歩いただけで尿がもれる▽股に何か挟まっているような異物感▽夕方になると不快感や異物感が強くなる▽尿が出にくい・残便感がある―といった悩みに対応する。月~金曜の午前11時~午後1時、専用電話(090-6844-2111)で受け付ける。祝日と年末年始は休み。問い合わせフォーム(https://www.fkmc.or.jp/form/iryousoudan/)でも、相談に応じている。

(2022年03月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

医療人情報

  • 女性泌尿器科  有地 直子
    2002年島根医科大学医学部卒業、島根大学医学部附属病院、特定医療法人あかね会土谷総合病院、兵庫県立西宮病院などの勤務を経て、2020年4 月一般財団法人倉敷成人病センター勤務に至る。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医

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