(6)AI×胸部単純エックス線画像 笠岡第一病院放射線科部長 笹井信也

 朝起きて体をスキャンすると人工知能(AI)が「おはようございます。今日も健康です」―。未来を描いた作品に登場するシーンです。こんな世界がそこまで来ています。

 胸部単純エックス線画像は体の後ろからエックス線を照射し透過するエックス線を画像化します。体の3次元構造を平面つまり2次元に投影するため、画像には正常構造の重なり合いが生じます。胸部単純エックス線画像を読むことが難しい理由の一つです。

 AIの画像を認識する能力はすでに人にひけをとらないレベルにあります。AIは人より物の特徴を見つけ出すのがうまいと言えます。

 AIの深層学習(ディープラーニング)は画像に含まれる着目すべき特徴を人に教わることなく自分で抽出していきます。しかも、AIが抽出する特徴には人が理解できていないものも含まれています。そういうわけでAIは人に勝る高い能力を獲得していると言われています。

 高い能力を持つAIは私たちの生活を大きく変える可能性があり、さまざまな場面で活躍が期待されています。それでは胸部単純エックス線画像から異常を見つけるAIの能力はどれ程か、見ていきましょう。

 人だけで胸部単純エックス線画像を読むと、対象所見に対する感度は専門医外で53・4%、専門医で74・7%です。画像を読む人によってこれだけの差があり、胸部単純エックス線画像の難しさを示しています。

 これにコンピューター検出支援を併用すると感度はそれぞれ72・6%、79・9%となります。専門医外で19・2ポイントも上昇することは注目すべきで、読む能力はコンピューターによる支援で専門医レベルになります。しかも、コンピューター支援が入ったその日から突然読む能力が向上するのですから驚きです。

 医師はコンピューター検出支援を利用することで自信を持って診断ができるようになります。検査を受ける人は医師が画像を正確に診断しているのかという不安がなくなります。コンピューター支援があれば画像を読む人にかかわらず一定の精度があるからです。

 医師と検査を受ける人の両者が安心感を持つことは重要で、胸部単純エックス線検査の信頼へつながります。胸部単純エックス線検査の重要性はCTなどの画像検査が発達した今でも変わりません。簡便で情報量が多く、初期の診断に欠かせない検査です。

 しかし、正確に読むことができなければその価値は発揮されません。AIによりその価値が十分に発揮される環境になり、胸部単純エックス線検査は見直されています。胸部単純エックス線の検査数は多く、いろいろな場面で行われます。AIがいつでも異常発見のサポートをしてくれるのはありがたく心強いものです。

 胸部単純エックス線画像を解析して異常をみつけるAIは高い精度を持ち、すでに信頼できる仲間として受け入れられています。この仲間がさらに能力を伸ばし、未来を描いた作品に登場するようなシーンが来ることを楽しみにしています。

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 笠岡第一病院(0865―67―0211)。連載は今回で終わりです。

 ささい・のぶや 岡山朝日高校、高知医科大学卒業。岡山大学放射線科、伊ローマ大学放射線科、岡山画像診断センターなどを経て2018年より現職。放射線診断専門医。

(2022年03月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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