(8)大動脈弁狭窄症に対するTAVI治療 津山中央病院循環器内科心臓弁膜症治療部門長 山中俊明

山中俊明氏

 大動脈弁狭窄(きょうさく)症に対する新しい高度治療である、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)について説明します。

 ■大動脈弁狭窄症

 大動脈弁狭窄症(AS)とは、心臓から大動脈へ血液が流れる際の大動脈弁の開きが悪くなり血流の流れが妨げられる弁膜疾患の一つです。

 75歳以上でASと診断される人の割合は約13%です。病状が進むと胸痛・動悸(どうき)・息切れなどの症状が現れます。高齢者は日常生活の行動範囲が狭くなるため、ASの症状の疲れやすさ・労作時の息切れなどを年のせいだと思ってしまい、症状に気付いていないケースが少なくありません。重症ASは、経過観察中に突然死や心不全入院などのイベント発生率が高い疾患です。5年間での突然死の発生率は症状ある重症ASで約9%あり、非常に怖い病気の一つです。

 重症ASの患者様は、お薬のみの治療と比較して早期手術が予後が良いと報告されています。心臓に障害が進行する前の適切なタイミングで治療を行うことが重要となります。健康診断などで心雑音を指摘された際は、ASなどの弁膜疾患の可能性がありますので、心臓の精査として心臓超音波検査などが可能な施設への受診をお勧めします。

 ■TAVI

 TAVIとは、重症ASに対する治療法で、開胸することなく、また心臓も止めることなく、カテーテルを使って人工弁を患者様の心臓に植え込む治療法です=図1。従来の開胸手術と比較して明らかに低侵襲(治療のために体を傷つける度合いが少ない)で、人工心肺を使用しなくて済むことから、患者様の体への負担が少なく入院期間も短いことが特徴です。

 当院はTAVIを2021年2月から開始し、1年間で43症例を行いました。平均年齢は85・2歳であり、日本でのTAVI施行された平均年齢84・4歳より高齢でした。

 TAVIの手技は全例(100%)成功し、1カ月後の短期経過では全例生存していらっしゃいました=図2

 TAVIでの合併症ですが、挿入部位の血管損傷が4例、また弁輪部破裂と新規脳梗塞発症をそれぞれ1例ずつ認めました。冠動脈閉塞および大出血は0例でした。外科的な開胸手術と比較して発症率が高いと報告されている新規ペースメーカー植え込み率は全国平均で8・5%に対して当院では0%でした。全国平均と比較しても当院のTAVIの治療成績は遜色なく安全に行われていることが確認できました。

 以上、ASの病態について、そしてTAVI治療および当院のTAVIの成績についてご報告させていただきました。

 当院ではハートチームで常に協議を行って治療適応を判断して、安全に治療を行っていると自負しております。引き続き、岡山県北地域の医療レベルを高水準に保たれるように日々精進していきます。今後ともよろしくお願い致します。

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 津山中央病院(0868―21―8111)。連載は今回で終わりです。

 やまなか・としあき 鳥取大学医学部卒。岸和田徳洲会病院、福山市民病院、愛媛県立中央病院、岡山大学病院などで勤務。2018~20年ドイツへ留学、20年より津山中央病院勤務。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医、日本経カテーテル心臓弁治療学会TAVR指導医。

(2022年03月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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