(2)薬物療法 倉敷中央病院循環器内科医長 川瀬裕一

地域の心不全手帳。赤色(右)の手帳に日々の血圧や脈拍、自覚症状などを記録する。青色の手帳は心不全の症状や治療などについてまとめている

 心不全は、徐々に進行し、命に関わってくる病気です。病気の進行を予防するためには、薬物療法が欠かせません。当院では、学会が推奨するガイドラインと最新の知見に基づいた治療を心がけており、患者さん自身の服薬管理の向上や地域のかかりつけの医療機関との連携にも努めております。本稿では、心不全の薬物療法についてご説明します。

 心不全の薬は、(1)心不全による症状をよくするために使う薬と、(2)予後をよくするために使う薬の二つに大きく分けられます。

 (1)心不全による症状をよくするための薬=利尿薬(尿の生成を促す薬)

 心不全の患者さんでは、心機能が落ちていることや内分泌ホルモンの乱れの影響で、体に水分がたまりやすい状態になっています。たまった水分は、肺にたまって息切れをおこしたり、手足にたまってむくみをおこしたりします。このような患者さんでは、利尿薬で、たまった余分な水分を尿として体の外に出すことで症状を改善させることができます。

 (2)予後をよくするための薬

 心不全には、心臓の収縮する力が悪くなるタイプと拡張する力が悪くなるタイプがあります。予後をよくするための薬は、収縮する力が悪くなるタイプの心不全で効果を発揮します。代表的な薬を表に示します。

 ■新たな治療薬

 近年、前述の薬物療法を受けておられる患者さんで、症状や脈拍、血圧が落ちついていないなどで困っているときに、新しい薬を使えるようになりました。

 内分泌系ホルモンに作用するサクビトリルバルサルタン、脈を減らして心臓の負担を軽くするイバブラジン、さまざまな経路に作用して状態を安定させるSGLT2阻害薬などがあります。これらの薬を適切に使うことで、症状や予後が改善することが証明されています。

 新しい薬が登場したことで、これまでよりも治療の選択肢が増え、おのおのの患者さんごとに適切に薬を選ぶことが求められるようになりました。当院循環器内科は心臓疾患を専門科とする診療科として、患者さんごとに新しい薬も含めた心不全治療薬をご提案させていただいたり、地域の医療機関に向けて薬についての勉強会などの開催を行ったりしております。

 ■自己判断の中止は厳禁

 最後に、薬物療法を受けていただく際の大切な点をご説明します。

 心不全という病気は、基本的には完治するものではありません。薬を使用している状況で症状が落ち着いていても、薬の中断が原因で症状や予後の悪化につながってしまうことがあります。心不全の薬(特に予後をよくするための薬)では、ご自身では効果を感じにくいこともありますが、決して、自己判断で薬をやめてしまわれることの無いようにしてください。

 一方で、心不全の薬では、副作用として血圧や脈が低くなり過ぎることがあります。気になることがあれば、医師に相談するようにしてください。当院では、倉敷地区心不全地域連携の会が作成しました「地域の心不全手帳」を用いて患者さん自身の服薬管理の向上に努めたり、地域のかかりつけの医療機関とのコミュニケーションを取ったりするようにしています。今回、ご説明致しました薬の詳細についても記載しておりますのでご参照いただけますと幸いです。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 かわせ・ゆういち 日本医科大学卒業。京都大学医学部附属病院循環器内科、日本赤十字社和歌山医療センター循環器内科を経て2013年4月から倉敷中央病院循環器内科。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、心臓リハビリテーション指導士。

(2022年04月04日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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