コロナ感染再拡大 江澤和彦氏に聞く 日本医師会常任理事・医療法人和香会理事長

江澤和彦氏

新型コロナウイルス感染症で入院中の高齢患者にリハビリを施す介護スタッフ(倉敷スイートホスピタル提供)

 新型コロナウイルスの感染が再び拡大傾向を見せている。今年に入って襲来した「第6波」が収まりきらない中、より感染力が強い変異株の出現によって「第7波」到来の見方も出ている。現状をどのように捉え、どう対応すればいいのか。日本医師会常任理事で、倉敷スイートホスピタル(倉敷市中庄)などを運営する医療法人和香会の江澤和彦理事長に、国の政策も踏まえながら解説してもらった。

 現在、国内では、新型コロナウイルスのオミクロン株「BA・1」から、その派生型である「BA・2」への置き換わりが進んでいます。BA・2はBA・1に比べ感染力が強く、海外の例では置き換わりとともに感染者が増えています。

 国内の新規感染者数は下げ止まりの傾向が見られます。この状態からBA・2への置き換わりが進むことによって、第6波を上回る勢いで感染が広がる可能性も否定できません。

 オミクロン株は、それまでのデルタ株などと比べ、感染力は強いが重症化はしにくいと言われていました。ところが今年に入って第6波が来て、感染者が爆発的に増えたために死亡者も大きく増えました。昨年12月に累計感染者は170万人台、死亡者1万8千人台だったのが、4月10日には感染者が700万人を突破しました。死亡者は2万8600人を超え、その8~9割は70歳以上の高齢者が占めています。

オンライン診療

 高齢者への3回目のワクチン接種率は3月末までで80%を超えたので、死亡者の減少を期待しています。しかし、今後の感染拡大を考えれば、発症後に一刻でも早く治療を開始できる体制を準備しておかなければなりません。

 例えば高齢者施設で患者が発生した場合です。感染拡大を受け、施設側も保健所も地域の医療機関も混乱しています。濃厚接触者の特定や感染者とその他の活動領域を分けるゾーニングをしながら、患者を受け入れてくれる医療機関を探している間に治療の開始時期は遅れてしまいます。

 いち早く治療を開始するには平素から協力医療機関との連携を深めるとともに、オンライン診療も活用すべきと考えます。

 もちろん診察は対面が原則ですし、新型コロナウイルス感染症は血液検査と画像検査をしないと的確な診断治療はできないので、オンライン診療には不向きだと思っています。

 しかし、現在の感染者の広がり、死亡者の多さをみれば国家的大災害だと言えます。災害医療の視点に基づき、限られた医療資源を効率的に活用する意味でもオンライン診療を取り入れる必要もあります。

 発症後、速やかに看護師が防護服を着て現場を訪れ、病状や要介護度、基礎疾患などを把握し、患者さんの映像とともに医師に報告し、医師はそれに基づき投薬を指示します。オンライン診療の活用でタイムロスは大きく減り、効果的な治療につながると考えます。ただ、しかるべき時期にその有効性や安全性の検証は必要でしょう。

 ポイントは、施設が協力医療機関を事前に確保していることです。

マッチング

 国は高齢者施設に対する医療支援の強化についての事務連絡を今月4日付で都道府県に出しました。そこには「今般のオミクロン株の流行に際しては、高齢者施設等における医療支援の強化が課題となったことを踏まえ、治療の開始・介入が遅れることのないように」と記し、医療支援体制の強化を求めています。

 具体的には、全ての施設が協力医療機関を事前に確保し、日頃から連携を深め、必要な場合に医師や看護師による医療を24時間以内に確保できる体制の構築を目指しているのです。

 これは、私が2年前から訴えてきた医療機関と高齢者施設との「マッチング」です。やっと国の施策に反映されることになりました。これにより、施設で感染者が発生した場合、より迅速で効果的な治療が確保されると考えています。

多職種協働体制

 加えて、コロナ病床ではリハビリや介護の専門職員の配置も必要です。われわれの助言を受けて国も4日付の事務連絡にその内容を盛り込んでいます。

 私が運営する倉敷スイートホスピタルは2020年12月からコロナ病床を開設し、21年5月以降は岡山県内で最も多い50床となっています。職員には心身ともに大きな負担を求めることになりましたが、今では自信と自覚を持って取り組んでくれています。これまで入院された患者さんは約400人。業務上の感染はいまだゼロです。

 当院ではリハビリと介護の専門職に入ってもらい、多職種協働の体制を取っています。コロナ病棟の高齢の患者さんは介護が必要だったり、認知症がある方も少なくありません。そこで寝たきりに近い状態が続くことによる機能障害の予防や、合併症となる血栓予防のためのリハビリ、食事介助や認知症ケアなどを実施しています。

診療報酬改定

 2022年度の診療報酬改定では目玉の一つに感染対策が挙げられました。診療所に対しては「外来感染対策向上加算」を新設し、医師会などが主催する院内感染に関するカンファレンスや、感染症の発生を想定した訓練への参加、感染症の発生時には発熱外来を設けていることを公表するよう求めています。

 こうした国の施策で地域の医療機関同士や保健所、医師会が連携を深め、感染対策の取り組みが活発になることが期待されています。

 えざわ・かずひこ 日本医科大学卒、岡山大学大学院医学研究科修了。同大学病院、倉敷広済病院を経て、1996年に医療法人「和香会」(倉敷市)、医療法人「博愛会」(山口県宇部市)理事長。2002年から社会福祉法人「優和会」(同)理事長兼務。18年から日本医師会常任理事、21年から中央社会保険医療協議会委員。日本リウマチ学会リウマチ指導医・専門医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。

(2022年04月18日 更新)

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