(3)カテーテル治療 倉敷中央病院循環器内科部長 丸尾健

丸尾健氏

 心不全の原因として、弁膜症、先天性心疾患、狭心症など解剖学的な異常が原因の病気があります。以前は胸を開いて外科的に手術をする必要がありましたが、血管にカテーテルと呼ばれる細い管を通して治療器具を心臓に運び、手元でカテーテルを細かく操作することで治療するカテーテル治療が、CTや超音波検査などの画像診断の進歩と相まってここ10年ほどで飛躍的に進歩を遂げています。

 カテーテル治療は体への侵襲、術後の痛みが少なく、早期の日常生活への復帰が可能であり、また高齢や高い手術のリスクなどこれまで治療が困難だった方でも治療が可能になる、患者さんにとってメリットが大きい治療です。

 弁膜症は、カテーテル治療の進歩が著しい分野です。心臓の弁がうまく開閉しなくなると、心不全を起こし、胸の痛みや息切れなどの症状が出現します。重症にならないと症状が出なかったり年のせいと考えて病院に行かなかったりして、非常に悪くなってから見つかることも多く注意が必要です。

 全身に血液を送り出す左心室の出口にある大動脈弁が年と共に硬く開かなくなる大動脈弁狭窄(きょうさく)症は、高齢化によって特に増加している弁膜症です。足の付け根の動脈からカテーテルで人工弁を運び留置する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)=図1=は、非常に画期的な治療として広がっています。当初は超高齢者や手術リスクの高い方が対象でしたが、外科手術と遜色ない治療結果が示され、より低年齢、低リスクの方にも使用可能になっています。

 左心房と左心室の間の僧帽弁が逆流をおこす僧帽弁閉鎖不全症に対する経カテーテルクリップ術(MitraClip)=図2=も4年前から可能になっています。足の付け根の静脈からアプローチし僧帽弁の病変をクリップで挟むことで治療が行われます。一度挟んでもやり直しのきく安全性の高い治療のため、全身状態が悪い手術リスクの高い方に対しても治療可能です。特に左心室の機能が低下した薬物療法が限界の心不全に対する非薬物治療法として重要性が高まっています。

 生まれつき心臓に構造異常がある先天性心疾患に対する経カテーテル治療も可能になっています。左心房と右心房の間の心房中隔に穴が空いている心房中隔欠損症、および肺動脈と大動脈の間に管が残っている動脈管開存に対しては、閉鎖栓を用いた経カテーテル閉鎖術が可能になっています。

 また、冠動脈狭窄による心筋虚血を伴う心不全では、経皮的冠動脈インターベンションでの加療が重要な位置を占めています。

 カテーテル治療が可能な循環器疾患が飛躍的に増え、今後も新たな治療機器の開発が盛んに行われています。一方で、全てにカテーテル治療が可能で優れているわけではなく、外科手術でなければ困難な場合やメリットが大きい場合も多く存在します。

 カテーテル治療が進歩しているのは事実ですが、画像診断などを元にカテーテル治療と外科治療を医学的に比較し、ハートチームで患者さんの生活、人生にとってよりよい治療を判断、選択することが重要と考えます。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 まるお・たけし 淳心学院高等学校、岡山大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。JR東京総合病院、国立循環器病センター、岡山大学病院を経て、2007年倉敷中央病院循環器内科。日本超音波医学会指導医、日本心エコー図学会心エコー専門医。

(2022年04月18日 更新)

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