(4)弁膜症に対する外科的治療 倉敷中央病院副院長(心臓血管外科主任部長) 小宮達彦

小宮達彦氏

 心臓は筋肉でできた四つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)と四つの弁(三尖(さんせん)弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁)からできています。心臓の弁が故障すると心臓の筋肉に負担をかけることになり、そのまま放置すれば心臓の寿命を縮めてしまいます。今回は外科的治療の話をします。

 心臓弁の故障には狭窄(きょうさく)症と閉鎖不全症の2種類があります。心臓弁は薄い膜でできていますが、狭窄症では、骨の構成成分であるカルシウムが膜に付着して次第に硬くなって弁の開きが悪くなってきます。閉鎖不全症では、膜が弱くなって次第に伸びてしまい、弁がうまく閉じなくなってきます。「薬で治らないのでしょうか?」と、よく質問されますが、「自然に治ることは決してありません。時間がたてばたつほど悪くなる一方です」とお答えしています。

 治療を行う時期については、日本の学会が2020年に発表した「弁膜症治療のガイドライン」に詳しく記載されています。私もガイドライン作成にかかわらせていただきましたが、日本のエキスパートの先生が症状や検査データをもとに、手術を行うべき時期を推奨しています。重要なのは無症状だからといって放置しておくと心臓が弱ってしまい、寿命を縮めてしまう可能性があることです。専門家の意見には素直に沿う方が良いと思います。

 僧帽弁の閉鎖不全症では多くの弁は修理(弁形成術)で直すことができます。僧帽弁では成功率も高く、複雑な故障でなければ、右胸の横の6センチほどの傷から治す治療(MICS)も可能です。骨を切らなくてよいので、回復も早いです。大動脈弁の閉鎖不全症に対しても、半数の患者さんで弁形成術を行っています。

 狭窄症の場合は、人工弁に取り換えます。若い患者さんでは30年以上の耐久性のある機械弁を使用します。この場合はワーファリンという薬を一生涯飲む必要があります。高齢者の場合は、生体弁を使用します。動物の膜を利用した人工弁でワーファリンは不要です。高齢者であれば、10年あるいは15年以上の耐久性が期待できます。

 前回のシリーズではカテーテルを使った治療を紹介しています。切らないで治るのであれば、カテーテル治療を希望すると思いますが、だれでも受けられるわけではありません。現在のところは、外科的治療の危険の高い患者さん、具体的には80歳以上の高齢者や心臓以外の重篤な病気を有する患者さんに行っています。どの治療が良いのかについては、エキスパートの先生の意見を受け入れることが賢明と考えられます。

     ◇

 倉敷中央病院(086―422―0210)

 こみや・たつひこ 東京教育大付属高、京都大医学部卒。京都大心臓血管外科を経て倉敷中央病院心臓血管外科。パリ、米ボストン留学・研修などの後、1997年11月から現職。2020年4月より同院副院長。日本胸部外科学会認定医・指導医、心臓血管外科専門医、外科学会専門医、心臓血管外科修練指導者。

(2022年05月16日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

関連病院

PAGE TOP