(4)膵臓がんを克服する―その2「治療」 岡山赤十字病院第三消化器外科部長 山野寿久、消化器外科副部長 杭瀬崇

山野寿久氏

杭瀬崇氏

 膵(すい)臓がんは非常に悪性度の高いがんですが、早期発見に不可欠な画像診断能の向上、手術技術や周術期管理の進歩、近年登場した有効な抗がん剤と手術を組み合わせる集学的治療の進歩により、この10年で最も治療成績が改善している病気の一つです。岡山赤十字病院の消化器内科(胆膵内科)・消化器外科(肝胆膵外科)の専門医が膵臓がんの克服へむけて診断から治療、当院における今後の取り組みについて3回にわたり説明します。第2回の今回は治療についてです。

 【膵臓がんの治療】

 膵臓がんを克服する軸となるのが、化学療法と手術の連携(集学的治療)です。有効な抗がん剤治療の登場(2013年FOLFIRINOX療法、14年GnP療法)に伴い、16年以後の日本では、膵臓がんに取り残しのない手術ができるかどうかという観点から三つのグループ(切除可能、切除可能境界、切除不能)に分けて治療を行っています。

 切除可能膵がん 手術と術後6カ月間の抗がん剤(飲み薬)治療が軸ですが、19年に切除可能膵がんに対する術前治療の有効性を裏付けるデータが日本から報告されて以後、当院でも術前化学療法として抗がん剤(飲み薬+点滴)治療を2カ月間行った後に手術を行っています。退院後は外来通院で6カ月間抗がん剤(飲み薬)治療を行います。

 切除可能境界膵がん 技術的には切除が可能と考えられますが、一部にがん細胞が残ってしまう可能性のある患者さんです。このような患者さんに対しては、当院では術前化学療法として抗がん剤(点滴)治療を3カ月間行った後に手術をします。退院後は外来通院で6カ月間抗がん剤(飲み薬)治療を行います。

 切除不能膵がん 「がんが他の臓器に転移している」、あるいは「周囲の重要血管へがんが高度に浸潤している」場合、切除不能膵がんに分類されます。「がんが他の臓器に転移している」場合、膵臓のがんだけを切除しても根本的な治療にならないため手術は行いません。一方、「周囲の重要血管へがんが高度に浸潤している」場合は長期間抗がん剤治療を行い、抗がん剤治療が非常に効果を発揮し「取り切れる」可能性が出てきた場合に手術を検討します。最近では有効な抗がん剤治療の登場に伴い、手術まで検討できる患者さんも少しずつ増えてきています。

 【膵臓がんの手術】

 膵臓がんの手術は、がんの場所によって決まります=図1。がんが膵臓の頭部にある場合は、「膵頭十二指腸切除術」が行われます。膵臓の体部、尾部にある場合は、「膵体尾部切除術」が行われます。頻度は少ないですが、状況に応じて膵臓をすべて摘出する「膵全摘術」を行うこともあります。

 いずれも重要な血管周囲の手術操作が必要であり、おなかの手術の中で特に難度の高い手術の一つとされています。当院では術前に撮影したCT画像を解析ソフトで3D再構築することにより、患者さん一人一人の血管走行を細部まで検討し=図2、膵臓がん手術の経験が豊富で手技に習熟した医師が担当します。そうすることで術後の合併症を可能な限り少なくし、できるだけ早期に術後の治療へ移行できることをこころがけています。

 【さいごに】

 当院では患者さん一人一人の病状や体力に合わせ、スタッフ全員で最善の治療を提供できるように全力で取り組んでいます。ご本人やご家族が膵がんと診断された際、どんなご相談でも構いませんので当院までお越しください。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 やまの・としひさ 岡山大学医学部、同大学大学院卒。国立岡山病院、岡山大学病院、岡山市立市民病院などを経て2009年より岡山赤十字病院勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本臨床外科学会・日本肝胆膵外科学会・日本腹部救急医学会評議員など。

 くいせ・たかし 岡山大学医学部、同大学大学院卒。岡山済生会総合病院、広島市民病院、岡山大学病院などを経て2021年より岡山赤十字病院勤務。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医・評議員、日本移植学会認定医、がん治療認定医機構がん治療認定医など。

(2022年06月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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