脱力やしびれに対する「神経生理検査」 筋肉などの電気調べ原因解明

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の内科部長で、同大学神経内科学教室の黒川勝己教授が、神経や筋肉が出す電気を調べることで、脱力やしびれの原因解明につながる「神経生理検査」について解説する。

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 ―脱力・しびれの原因は何があるのでしょうか?

 まず脱力ですが、力が入らない運動系の症状です。運動系の場合、脳からの命令・信号が脊髄(せきずい)、末梢神経を経て筋肉にたどり着いて、力が入ります。この経路のどこかに障害があると脱力が生じます。

 次にしびれです。これはジンジン感や感覚鈍麻など一般には感覚系の症状です。先ほどの運動系とは逆に、皮膚からの信号が末梢神経、脊髄、脳へと伝わっていきます。しびれがある場合は、この経路のどこかに障害があるわけです。

 例えば、脳の病気である脳梗塞、頸椎(けいつい)症、腰椎症、末梢神経の病気(手根管症候群など)などによって脱力やしびれが生じます。これら多くの病気の中で何が患者さんの原因であるかを突き止める必要があるわけです。

 ―診断方法はどのようなものがあるのでしょうか?

 実際には検査をする前に、患者さんから話を聞く「問診」や神経学的診察が重要です。問診は患者さんの症状がいつ起こったのか、どのような経過で起こったのか、どこに生じたのかなど多くのことを詳細に聞き、原因や障害部位を判断します。神経学的診察はさまざまな筋肉の筋力を調べたり(徒手筋力検査)、つまようじなどで皮膚を刺激して感覚障害の評価をしたり、ハンマーで腱反射をチェックしたりします。

 これらで神経系のどこが悪いのか、何が原因かが、7、8割分かります。残りの2、3割を検査で補って確定診断します。

 検査には、画像検査と今回取り上げる神経生理検査があります。画像検査のCTやMRIは非常に有用ですが、構造的な検査なので、異常があってもそれが必ずしも原因とは言えません。例えば、高齢者は何も症状のない方でも頸椎MRIを撮ると頸椎症のような異常がよく認められます。しかし、頸椎症所見があったからといって、それを治療する必要はないわけです。ですから、画像検査で異常があるからといって、すぐにそれが原因だと断定してはいけないわけです。

 一方、神経生理検査は神経系の電気的な信号を記録するので機能的な評価ができ、原因がどこかを調べることができます。神経生理検査には、神経伝導検査、針筋電図検査、体性感覚誘発電位検査などがあります。

 ―それぞれの検査について詳しく教えてください。

【神経伝導検査】

 末梢神経を評価する検査です。末梢神経を電気的に刺激し、その際に生じる電気信号(活動電位)を記録して、末梢神経の状態を調べます。運動神経も感覚神経も評価できます。運動神経の場合は、神経を刺激して筋肉が収縮する際に生じる電気信号を記録します。

 居眠りをして、目が覚めたら手や指を反ることができない患者さんが来院されました。急に生じた脱力であり、脳卒中も鑑別に挙がりますが、診察などから橈骨神経障害が考えられました。そこで橈骨神経の運動神経伝導検査を施行しますと、上腕部で電気信号(活動電位)が途絶えるところ(伝導ブロック)があり、上腕部での圧迫性橈骨神経麻痺と診断できました。おそらく居眠りをしている間に、硬いもので上腕部を圧迫していて生じたものと考えられました。

【針筋電図検査】

 針筋電図検査は、脱力の原因がどこにあるのかを調べることができます。筋肉に針電極という細い針を刺して、患者さんに力を入れてもらって生じる電気信号(運動単位電位)のパターンなどを評価することで、脱力の原因が、筋肉なのか末梢神経なのか、あるいは中枢性なのかを判断できます。また、安静時の状態を評価することで、進行性の神経障害があるかどうかかなども分かります。

 徐々に手足の脱力が生じた患者さんが、他院では頭部MRIで異常がないので様子を見ましょうと言われ、当院に紹介されました。まずは診察で筋肉のピクつき(線維束性収縮)があることから、筋萎縮性側索硬化症(ALS)が強く疑われました。その方に針筋電図検査を行うと、安静時に、本来なら認められない電気信号(安静時自発電位)が認められ、広範囲に運動神経が障害されていることがわかり、ALSと診断しました。ALSでは画像検査の異常は出ませんので、神経生理検査が重要となります。

【体性感覚誘発電位検査 (SEP)】

 感覚神経障害がどこにあるかを調べる検査です。上肢なら正中神経、下肢なら脛骨(けいこつ)神経を電気刺激して、その電気的な信号が脳に伝わるまでに途中で発生するさまざまな電位を記録することで、感覚神経障害がどこにあるのかを判断します。

 急に左腕のしびれと脱力が生じた患者がいました。頭部MRIでは異常がなく、元々精神科的な病気があったので、今回の症状も精神的なものと考えられていた方ですが、SEPを行い、左腕神経叢(そう)での障害が確認され、適切な治療をすることができました。

【反復刺激検査】

 神経から筋肉に命令・信号が伝わる部位を神経筋接合部と言います。反復刺激試験は、その神経筋接合部の機能を評価できる検査です。運動神経を反復・連続して刺激し、得られた筋肉の活動電位を評価して、神経筋接合部の機能を調べます。

 ある男性患者さんはこの検査を行い、漸増現象という所見があったため、神経筋接合部疾患であるランバート・イートン症候群(LEMS)と診断できました。LEMS は男性の場合、ほとんどの患者で肺小細胞がんがあるので、胸部CTを調べると肺がんが見つかり、治療を開始することができました。

 他にも、単線維針筋電図検査、瞬目反射検査などがあります。これらの検査を組み合わせることによって、患者さんの脱力、しびれの原因を明らかにし、適切な治療へと進めていきます。

 ―最後に、川崎医科大学総合医療センターでの取り組みを教えてください。

 我々は、まず、病歴と診察による評価を重視しています。その上で、画像検査のみでなく神経生理検査を行うことによって確定診断をしています。ここで大切なことは、検査を行う的確な技術がなければ、正しい診断には至らないということです。我々は全員が、日本神経学会の認定している神経内科専門医です。また、私をはじめとして日本神経生理学会(神経生理検査の技術を評価・認定する学会)の専門医・指導医でもありますので、正しい診断ができると思っています。ですから、脱力やしびれで、原因が分かっていないような場合、当科への受診をご検討していただければ幸いです。




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(2022年07月14日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

医療人情報

  • 内科部長  黒川 勝己
    1989年、広島大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院第三内科(現・脳神経内科)に入局。川崎医科大学附属病院神経内科講師、米アラバマ大学神経内科留学などを経て、2021年10月から川崎医科大学総合医療センター内科部長を務める。神経内科専門医・指導医。日本臨床神経生理学会専門医(筋電図・神経伝導分野及び脳波分野)、日本臨床神経生理学会指導医(同)

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