心臓病センター榊原病院 ブラッドアクセスセンター開設 近沢院長補佐、清水人工透析内科部長に聞く

近沢元太院長補佐

清水明徳人工透析内科部長

 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)は、血液透析の患者に欠かせない特殊な血管「シャント」の評価や再作成に加え、併発する心臓血管疾患に対し、専門性を生かして治療介入も行う「ブラッドアクセスセンター」を4月に開設した。その狙いについて、院長補佐の近沢元太医師(心臓血管外科)と、人工透析内科部長の清水明徳医師に話を聞いた。

 ―透析患者は心筋梗塞や脳血管障害といった心臓血管疾患を起こす可能性が高いと言われます。

 清水医師 心臓も腎臓も基本的には血管の塊です。血管が狭くなったり硬くなったりする動脈硬化が進行すると、心臓では狭心症や心筋梗塞、弁膜症などが起きやすくなり、腎臓でも血管が傷んで機能が落ちます。心不全など循環器疾患の患者さんが腎不全を合併して人工透析が必要になったり、透析の患者さんが心筋梗塞などを合併して循環器の専門医による治療が必要になったりすることはしばしばあります。

 心臓と腎臓の両方の治療が必要な、重症の患者さんは高齢化によって増えています。当院は1999年に人工透析室を設け、主に他の医療機関から紹介を受ける形で心臓手術が必要になった透析患者さんや、治療の過程で透析導入に至った心臓疾患の患者さんがたの診療に当たってきました。

 ―ブラッドアクセスセンター開設の狙いは何でしょうか。

 近沢医師 センターは、清水先生や私を含め人工透析内科、循環器内科、心臓血管外科の専門医4人が所属しています。心臓と大血管疾患の専門病院としての強みを生かし、透析患者さんのシャントトラブルや心臓血管疾患に対してベストな治療を提供しようという当院の取り組みです。

 清水医師 まずは血液透析に欠かせないシャントについてお話しします。

 現在、国内のほとんどの透析患者さんが血液透析を利用しています。血液透析は通常、腕の血管に針を刺し、1分間に200~300ミリリットルの血液を体外に取り出し、透析装置に循環させて浄化しますが、皮膚の近くを走っている静脈では20~30ミリリットルの血液しか得られません。動脈ならば十分な量の血液は流れていますが、深い場所にあるため神経を傷付けたり出血などのリスクが高くなります。そこで静脈と動脈をつなげて静脈の血流を増やし、皮膚の近くで十分な量の血液が得られるようにした血管がシャントです。透析患者の命綱と言えます。

 近沢医師 動脈とつながることで、シャントはこれまでにない高い圧に持続的にさらされます。すると血管の内膜が厚くなって狭窄(きょうさく)が生じ、血液が通りにくくなってしまいます。カテーテルを使った血管内治療で血管を広げて適切な流量を確保する必要があります。場合によったら作り直さなければなりません。しかも、透析のたびに針を刺しているうちに血管は傷んできます。定期的な点検・評価は欠かせません。

 ブラッドアクセスセンターの開設から6月末までの3カ月間で、他の医療機関からの紹介は133例に上り、そのうち111例(83%)でシャントトラブルに対応しました。

 ―心臓血管疾患のある透析患者に対してはどう対応しますか。

 近沢医師 ブラッドアクセスセンター開設の主たる目的はそこにあります。

 透析患者さんは心臓や血管に何らかの不具合や病気を抱えています。無症状で進行して突然破裂する大動脈瘤、心筋梗塞、弁膜症といった病気のリスクを超音波やCT、MRIなどの各種検査でいち早く見つけ、必要に応じて手術やカテーテル治療などを実施します。われわれで対応できない脳血管疾患であれば他の病院に紹介します。透析患者さんの合併症を起こさせない、憎悪させないことを第一に、いろんな形での治療介入を考えています。

 ただ、心臓の手術となれば、人工心肺装置を使って全身の血液循環を機械で代行させるという非生理的な状態を作り出さざるを得ず、各臓器への影響をいかに最小限に抑えるかが大きな課題です。透析患者さんは動脈硬化によって血管の石灰化が進んでいて難易度は非常に高く、高度な技術と経験が求められます。カテーテル治療でも造影剤を使うので腎臓への悪影響は避けられません。

 清水医師 そういったさまざまな諸課題に対し、これまで当院はしっかり対応してきました。透析の患者さんにとって、循環器系の合併症に対する専門的な治療は必要不可欠です。今回、センターを開設したことで、より効果的な治療を展開できると考えています。

     ◇

近沢元太院長補佐(心臓血管外科) ちかざわ・げんた 筑波大学医学群卒業。東京女子医大心臓病センター循環器外科助手、東京医大茨城医療センター心臓血管外科講師、カナダ・トロント大学心臓血管外科臨床フェローを経て2009年に心臓病センター榊原病院外科部長、14年から院長補佐。専門医機構認定心臓血管外科修練指導者、ステントグラフト指導医、日本外科学会指導医・専門医、米国胸部外科学会国際会員、カナダ・オンタリオ州医師免許、東京女子医大心臓血管外科非常勤講師。

清水明徳人工透析内科部長 しみず・あきのり 三重大学医学部卒業。岡山大学医学部第一内科、住友別子病院を経て1999年に心臓病センター榊原病院人工透析内科部長。日本内科学会認定医・指導医、日本透析医学会指導医、日本循環器学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医。

 透析医療 腎臓の機能が悪化すると、患者は尿毒症や心不全などを起こして死に至る。患者の生命を維持する透析医療には、機能不全となった腎臓の代わりに、ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓を通して老廃物や不要な水分を除去する血液透析と、体内の腹膜を利用して血液を浄化する腹膜透析がある。血液透析は、専用の医療施設で週3回、1回4時間以上行う。国内の透析患者の97%が血液透析を利用している。腹膜透析は1日3~5回必要だが、患者自身や家族によって自宅や職場でも可能。

(2022年08月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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