(1)医師と薬剤師の関係 建部泰尚

建部泰尚氏

 人が健康で安心して暮らすために薬は欠かせない。熱を下げたり腹痛を治したり。なければ生きていけない人もいる。その薬の専門家が薬剤師だ。岡山大学病院薬剤部の皆さんに、正しい服用の仕方や副作用、どうやって作られているのかなど、薬にまつわるいろんな話をつづってもらう。

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 「薬剤師とはどのような仕事でしょうか?」

 そう問われたら、皆さまはどう答えるでしょうか?

 「薬局で薬を準備して、薬について説明をしてくれる人」と想起するでしょうか?

 薬局での薬剤師は想像できても、病院で薬剤師がどういう仕事をしているか詳しく知らない方も多いと思います。

 病院では、薬局同様に薬を準備して服薬指導を行うこともあれば、抗がん剤や栄養輸液を無菌状態で調剤するなどさまざまです。近年では薬剤師が入院病棟に専属で配置され、患者さまと接する機会も大きく増えたと言えます。

 かくいう私も2013年ごろより7年ほど、小児科病棟専属の薬剤師として勤務しました。ここでは皆さまに見えない医師と薬剤師の関係について、小児科病棟での業務を例に紹介したいと思います。

 小児医療では、安全性や有効性などについての医薬品情報が成人ほど充足しておらず、情報がある限られた医薬品で治療しています。そのため国内のみならず、海外の情報も参考にして薬物治療を提供していますが、医師も全ての医薬品情報を漏れなく把握するのは困難です。

 また、薬の投与量一つとっても子供の体格に合わせて決定せねばならず、とても繊細な仕事になります。

 例えば、解熱鎮痛剤の「アセトアミノフェン細粒20%」を小児に処方する場合を例に挙げて紹介します。

 薬の用量には、製品としての製剤量と、その中に含まれる有効成分量があります。この場合は、製剤量の20%が有効成分のアセトアミノフェンで、残り80%は賦形剤(ふけいざい)などの医薬品添加物となります。

 本薬剤の1回量は有効成分量として体重1kgあたり10~15mgであり、10kgの小児が1日3回服用する場合、1日あたり300~450mgを処方する必要があります。従って、この成分量を含む20%細粒の製剤量は1・5~2・25g/日という量になるわけです。

 この計算過程で間違いが起きやすいとされており、実際にアセトアミノフェン過量投与で肝不全となった例も存在します。

 薬は医師の処方に基づき、薬剤師がその内容を確認した上で調剤します。病棟薬剤師の存在は、小児医療における処方ミスを防ぐ最も大きな要因の一つであるという外国の研究結果があります。

 もちろん、処方量の確認以外にも医師と薬物治療について相談をしています。小児医療に限りませんが、バンコマイシンなどの特定の抗生物質に関しては血液中の濃度を参考にしながら薬剤師が主体的に投与量や投与方法を立案し、医師に提案しています。

 実際に、こうした抗生物質の投与量を私が決定したり、症状や検査結果を基に別の抗生物質へ変更を提案するといったことは日常的に行っています。

 病棟に薬剤師が配属されるまでは、医師と薬剤師の関係というのは電話で話をする程度でした。私の経験でも、病棟で勤務を開始した当時と比較して、7年の間に医師の先生方から質問・相談される件数は非常に増えていきました。このことは私たち薬剤師と医師の関係性がより近く、より良好になってきている一つの証拠だと思っています。

 たてべ・やすひさ 岡山大学薬学部卒業。2013年4月、同大学病院薬剤部入職。20年3月、同大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了。現在に至る。

(2022年09月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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