がん診療に力 岡山画像診断センター 早期発見に力発揮

金澤右氏

加地充昌氏

福武總一郎氏

 早期がんの発見に力を発揮するPET/CTなどの高度画像診断で、地域医療に貢献している岡山画像診断センター(岡山市北区大供)は、岡山大学病院が建設を提唱し、地元の財界人や企業が資金面を支え、岡山県なども支援するという全国に例のない産官学協働の取り組みによって誕生した。2006年4月の開業から16年が過ぎ、岡山市を中心とした医療機関の依頼で年間4000件超のPET/CT検査を担うなど、地域のがん診療に欠かせない存在となっている。事業を中心になって推し進めた前岡山大学病院長の金澤右(すすむ)氏と、岡山画像診断センター理事長・院長の加地充昌氏、建設に協力した福武總一郎氏(福武財団理事長)に、経緯と意義を語ってもらった。

 岡山画像診断センターの建設・整備にかかった総事業費は二十数億円。岡山県内の十数企業・個人からの出資や融資を充てた。建設用地は岡山大学の所有地を借りている。資金を管理する特定目的会社を2005年3月に設立し、同4月に着工。運営に当たる医療法人は同7月に発足させた。特定目的会社は17年、経営は安定し当初の目的は達したとして解散した。

 最新鋭のPET/CTとMRIを各2台、CTを1台設置。PET用薬剤を製造するため、サイクロトロンなどの施設も建物内に設けた。医療スタッフは、放射線科専門医、核医学専門医の資格を持つ常勤医3人と診療放射線技師7人、看護師7人がいて、がんをはじめ心疾患、脳血管疾患、脊椎や関節、骨の異常などについて幅広く画像診断する。PET/CTによるがん検診や、遠隔画像診断も実施している。

 検査業務(保険診療)は、PET/CTが2020年12月に累計で7万件を突破した。年間4千~5千件で全国的にも高い実績を上げている。他の検査では分からないような早期がんを見つけられる。腫瘍が良性か悪性か、転移か再発か、治療効果なども調べることができ、治療法や治療範囲の決定に役立つという。

 MRIは年間6千~7千件、CTは年間2千~3千件。PET/CTを含めセンターに検査依頼(紹介)している医療機関は岡山市を中心に200を超える。

 PET/CTによるがん検診(任意型)は19年11月に累計6千件を突破。年間平均で300~400件に上る。

 遠隔画像診断は県外も含め4医療機関との間で行っていて、オーダーから24時間以内に診断レポートを提出している。

多くの協力得て導入実現
前岡山大学病院長 金澤右氏(川崎医科大学総合放射線医学特任教授、前岡山大学医学部放射線科教授)


 岡山画像診断センター建設の背景には2004年4月の国立大学法人化がありました。国の運営費交付金は毎年1%削減される中、大学独自の収支決算がなされるようになり、新たな投資には厳しい目が注がれるようになったのです。

 02年に保険適用になっていたPET/CTはがん診療に欠かせず、大学病院に絶対必要な装置ですが多額の導入費用がかかります。CT、MRIの更新も必要でしたが、資金の目途は立ちませんでした。米国では病院外部に企業などからの出資で独立採算のセンターを設立し、画像検査を委託する方法が行われていて、これにヒントを得ました。

 04年秋から出資を募り、当時、ベネッセコーポレーションの会長だった福武總一郎さんに事業の概要と意義を説明すると「やりましょう」と言ってくれました。他の企業にも声をかけていただき、多くの協力が得られました。

 運営に当たる医療法人を発足させたのは05年です。理事には岡山県医師会長、岡山市医師会長にも入っていただいています。公益性の高さを岡山県が認めてくれて、異例のことですが、06年の開設前に医療法人の認可を得ました。

 放射線科専門医や診療放射線技師らは岡山大学病院からの派遣です。岡山県の高速インターネット網・岡山情報ハイウェイと接続し、岡山大学病院などと画像の送受信がスムーズにできるようにしました。検査数は増え、08年からは黒字の健全経営が続いています。

 当初、福武さんは「地域に貢献するセンターになってほしい」と言われました。15年を経て、その思いは実現できたのではないかと思っています。

PET/CTで詳細画像
岡山画像診断センター理事長・院長 加地充昌氏


 CTやMRIは体に大きな侵襲を加えることなく内臓や血管、骨などの状態を画像化できます。PET/CTはがん細胞の活動や性質、その位置が詳細に分かります。画像診断は現在の医療に必須の存在です。

 近年、画像診断の性能は急速に向上し、需要は大きく伸びています。一方、システムは高度化、複雑化して、画像を的確に評価するには放射線診断医の専門的な知識と経験が欠かせません。しかし、放射線診断医は医師全体の2%で、その数は不足し、医療機関によって診断能力にはばらつきが生じます。また、高額なPET/CTなどを各医療機関で導入するのは大きな負担です。

 当院でのPET/CTの検査業務は半分以上が岡山大学病院の紹介で、残りは岡山市立市民病院や岡山済生会総合病院、岡山赤十字病院、岡山医療センターなど近隣の大きな病院です。こうした地域の中核的な医療機関の要請に応じて、高度な画像診断を提供しているセンターの役割は大きいと思っています。

 当院ではPET/CTで使う放射性薬剤を製造するサイクロトロンも設置しています。薬剤の主流は放射性同位元素のフッ素18をつけたFDGですが、さらに有効な薬剤が新たに発見されるかもしれません。サイクロトロンがあれば、新たな薬剤にも対応できます。また、アルツハイマー型認知症の早期発見・診断に有効な薬剤が近く保険適用になる可能性があります。それに対しても準備を進めていきたいと思っています。

企業の社会貢献 当たり前
福武財団理事長 福武總一郎氏


 岡山画像診断センターの話を聞いたとき、それは良い話だと思いました。がんなどの画像診断の重要性は高齢化もあって、どんどん増すだろうと考えていましたから。岡山大学や、地域医療にとってもなくてはならない施設です。

 私は「民設公営」ということを以前から言っています。民間企業が社会に必要とされる施設などをつくり、公的なところが地域社会のために運営する。世の中で富を創造しているのは企業しかありません。だから企業が社会に貢献するのは当たり前なのです。世の中にはいろんな課題があります。国や自治体だけに任せるのではなく、企業がもっと関わるべきだと思っています。

 PET/CT がん細胞の活動を捉えるPETと、臓器の形を画像化するCTを組み合わせた複合装置。

 PETは、がん細胞がエネルギー源のブドウ糖を正常細胞より活発に取り込む性質を利用する。ブドウ糖によく似た構造のFDGという薬剤に放射性同位元素のフッ素18を付けて静脈注射し、がん細胞に集まったFDGから出る放射線を特殊なカメラで検知する。

 PETは、数ミリ単位の早期の異常を捉えられるが、周辺の臓器はぼんやりと映るだけで位置は特定できない。そこで臓器の形態を三次元でクリアに再現できるCTを組み合わせ、がんの正確な位置が分かるようにした。体の広範囲を一度に検査できるため想定外の病変も見つけられる。

(2022年09月05日 更新)

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