津山中央病院「インペラ」導入 心臓のポンプ機能補助、県北初

インペラ導入に向け、トレーニングを重ねる津山中央病院の医療スタッフ(津山中央病院提供)

松本三明・心臓血管センター長

山中俊明・循環器内科心臓弁膜症治療部門長

今村繭子・循環器内科医師

津々池満雄・心臓血管センター臨床工学技士(臨床工学部課長)

絹田文彦・心臓血管センター臨床工学技士

 重症の心筋梗塞や心筋炎などで心臓のポンプ機能が急激に落ち込むと、「心原性ショック」が起きて患者は危機的な状態となる。津山中央病院(津山市川崎)は、こうした状況に対応しようと補助循環用ポンプカテーテル「インペラ」を5月に導入した。岡山県北の医療機関では初めて。これまでは人工心肺装置ECMO(エクモ)などで治療に当たってきたが、救命できない場合があった。副院長で心臓血管センター長の松本三明医師は「従来の治療法に比べインペラの効果は大きい。これまで手が届かなかった重症症例に対し、治療の扉を開いた」と話している。

 心臓は、拡張と収縮を1日に約10万回繰り返し、全身に血液を循環させるポンプとして働いている。この体循環によって臓器の細胞は絶えず血液の供給を受け、酸素や栄養の補給、老廃物の排出など行って体内の恒常性を保っている。

■心筋障害

 「ショック」とは、心臓のポンプ機能が急激に落ち込むなど、さまざまな原因で血圧が大きく低下し、脳や心臓、肝臓、腎臓など重要臓器への十分な血流が保てなくなった状態とされる。命に関わるため早急な治療が必要だ。

 血栓(血の塊)が心臓の冠動脈をふさぐ急性心筋梗塞が原因の心原性ショックでは、全身の血液循環を確保したうえで血栓を取り除かなければならないが、「その際、注目すべきは左心室の張りだ」と松本医師は指摘する。

 というのも、心臓は冠動脈が閉塞しているだけでなく、ポンプ機能低下のため左心室には血液が滞留し、負荷がかかってパンパンに張った状態になっているからだ。張ったままの状態が続くと心筋障害が進み、心臓は急速に収縮する力を失ってしまって元に戻らなくなることがある。このため「血液を抜いて心筋を休ませ、機能回復を図ることが重要だ」と言う。

■心臓を休ませる

 これまでは、エクモや大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで治療に当たっていた。

 エクモは、血液を体外に取り出して人工心肺装置を通して体内に戻し、心臓のポンプ機能と肺の呼吸の働きを肩代わりする。だからエクモを使えば生命は維持される。しかし全身の血液循環が良くなる一方で、血液を動脈に戻す際の圧力によって心臓にはさらなる負荷がかかっていた。松本医師は「心臓の機能が戻らず、その後に亡くなるケースもあった」と振り返る。

 IABPは風船(バルーン)のついたカテーテルを心臓に近い大動脈内に留置する。心臓の動きに合わせて風船を膨らませたり収縮させてポンプ機能を補助するが、「心臓の負荷軽減の面から見れば効果は小さい」という。

 いかに心臓を休ませるか―。この問題を解決できる医療機器として注目を集めているのがインペラだ。松本医師は「エクモでもIABPでも救命できない重症症例に対し、インペラは力を発揮する」と強調する。

■ハートチーム

 インペラは細い管状のカテーテルの形をしていて、ポンプとなる小型モーターと羽根車(インペラ)を内臓している。直径は4~7ミリ。太ももの付け根などから血管内に挿入し、ポンプ先端の吸入部が心臓左心室に、吐出部は大動脈にとどまるよう留置する。

 モーターを高速回転させて左心室の血液を吸い込み、各臓器につながる大動脈に送り出して心臓のポンプ機能を補助する。その能力は1分間に2・5~5リットルと、正常な人間の能力に匹敵する。心臓の負荷を取り除いて休ませることで、機能回復が期待できる。欧米で普及し、国内では2017年から保険で使えるようになった。

 津山中央病院は今年2月、インペラを導入するため関連学会でつくる協議会の施設認定を受けた。心臓血管外科や循環器内科、救急集中治療科、麻酔科、臨床工学部など関連部署の100人近いスタッフが研修を受けて「ハートチーム」を結成。5月からインペラによる治療を開始した。治療現場においては術前から術中、術後に至るまで24時間体制で機器の管理や操作などに携わる臨床工学技士の役割が大きいという。

■エクモと併用

 急性心筋梗塞による心原性ショックで津山中央病院に救急搬送された高齢患者の場合は、インペラとエクモの併用で一命を取り留めた。

 循環器内科の山中俊明医師(心臓弁膜症治療部門長)や今村繭子医師によると、患者は3本ある心臓の冠動脈のうち2本が詰まっていた。「すぐにカテーテルを挿入してインペラを稼働。冠動脈の血流を再開させる治療も行った」という。

 ただ、心臓で血流が滞っていたため肺に血液がたまる「うっ血」が起きていた。肺うっ血が起きると血液に酸素が十分取り込めず、全身の血液循環が改善しても各臓器に酸素が行き渡らない。そこで肺の機能も兼ね備えたエクモも使った。

 「エクモで体循環と呼吸機能を代行して生命維持を担い、インペラは心臓を休ませる役割に徹してもらった」と山中医師は言う。患者は入院7日目にエクモを離脱し、10日目にはインペラも外すことができた。

 津山中央病院は県北唯一の救命救急センターを有する地域医療の最後の砦(とりで)。松本医師は「県北の患者さんに国内最高水準の医療を提供するため当院も進化を続けている。さらなる救命率の向上と、治療後のより良い療養生活の実現を図りたい」と話している。

(2022年09月19日 更新)

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