(5)大人の発達障害と精神科併存障害 慈圭病院病棟医長 渡部一予

渡部一予氏

 2016年の発達障害者支援法の改正後、発達障害には幼児期・学童期のみでなく、成人期や老年期まで継続した「切れ目のない支援」が必要であることが広く認識され、近年、大人の発達障害は社会的にも注目を集めています。

 発達障害は、生まれつき脳機能の一部に障害があり、認知や行動に偏りが生じ、学校や職場などでの社会生活に支障を来している状態です。米国精神医学会が13年に発行した「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM―5)」では、発達障害は「神経発達症」として分類され、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などが含まれます。

 通常低年齢(12歳未満)で発現する(気づかれる)ものですが、幼児期・学童期には発達特性が見過ごされ、大人になってから社会での生きづらさを感じ、精神的不調を生じて一般精神科病院を受診した際、初めて、その背景にある発達障害に気づかれる場合は少なくありません。

 大人の発達障害の場合、実は子供の頃から、周りの人と同じようにできないことで劣等感を抱いたり、失敗を繰り返し非難や叱責(しっせき)をされる場面が多く、長年にわたり相当のストレスを感じ続けてきたと考えられます。その結果、成人期ASDでは、70~80%程度に精神疾患が併存するといわれ、不安障害、うつ病、強迫症、ADHD、チック症、睡眠障害などを認めると報告されています。

 また、成人期ADHDも50~70%に何らかの併存疾患があるとされ、不安障害、気分障害、物質使用障害(アルコール依存症など)などがあげられます。

 このように、大人の発達障害は併存障害の陰に隠れてしまいがちなため、子どもと比較し診断までに時間がかかる場合があります。また、併存障害の程度によっては早急な治療的介入を必要とするため、できるだけ早く専門医を受診することをお勧めします。発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなど公的機関にも相談できます。

 併存障害の治療としては薬物療法がメインとなり、それぞれの精神症状に合わせ抗うつ薬・抗精神病薬・気分安定薬などを用います。また、発達障害そのものを治す薬はありませんが、薬物療法により発達障害の特性が原因で生じる不適応行動を軽減させることができます。その他に、環境調整法・認知行動療法・SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などさまざまな治療法を組み合わせることが効果的です。

 自分自身でできる日頃からの工夫もあります。

 (1)適度に休む=発達障害があると、無意識に仕事に集中してしまう傾向があり、適度に休憩が取れずストレスをためてしまいます。休憩時間はきっちり守ることが大切です。

 (2)生活リズムを整える=生活リズムが乱れると精神的不調をきたしやすくなります。特に睡眠リズムを一定に保つことは重要です。

 (3)自己肯定感を高める=自分の得意を見つけることは自信につながり、苦手なことを克服するエネルギーになります。

 発達障害を診断することは診断名をつけることが目的ではありません。「得意、不得意」(特性)を本人や家族・周囲の人が正しく理解し、家庭や学校・職場で、その人にあったやり方や過ごし方の工夫(支援)につなげていくことが一番重要です。

 精神科の臨床現場においても、背景にある大人の発達障害についてどのように気づき、医療的支援につなげていくかという点が、今後の精神科医の課題であると考えます。

     ◇

 慈圭病院(086―262―1191)。連載は今回で終わりです。

 わたなべ・かずよ 島根医科大学卒。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学分野修了。医学博士取得。岡山大学附属病院精神神経科、国立岩国病院、高知県立中央病院、福山仁風荘病院、こころの医療たいようの丘ホスピタル、旭川荘療育・医療センターなどを経て、2013年から慈圭病院に勤務。精神保健指定医。日本精神神経学会(専門医・指導医)、日本生物学的精神医学会、日本児童青年精神医学会などに所属。

(2022年10月04日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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