臓器移植 カードで意思表示を 法施行25年 県バンク田中理事長

「臓器提供について家族と話し合い、自らの意思を示して」と呼びかける田中理事長

 脳死と判定された人からの臓器提供を可能とする臓器移植法の施行から16日で25年。2010年の改正法施行により、脳死ドナー(臓器提供者)は年々増え続け、19年には最多の97人になったが、新型コロナウイルス禍で状況が一変。臓器提供に対応する医療機関が未知のウイルスとの闘いに追われるなどし、20、21年の脳死ドナーはいずれも70人を切った。提供を待つ患者は全国に約1万5千人。岡山県臓器バンク(岡山市北区大元駅前)の田中信一郎理事長(73)は「移植医療への理解を深め、臓器提供カードなどで意思表示してほしい」としている。

 ―法施行後に現れた脳死ドナーは、今年9月末時点で867人になった。

 10年に施行された改正法が大きな転機になった。提供の意思を示す書面がなくても家族の承諾があれば臓器提供が可能になり、改正前は年間20人に満たなかった脳死ドナーは大幅に増加した。それでも移植が受けられる患者は年間300~400人にとどまる。20年に始まったコロナ禍では全国の医療提供体制が逼迫(ひっぱく)。その対応に多くの人手が必要となり、脳死判定が困難になる臓器提供施設もあった。

 ―本人や家族に臓器提供の意思があっても実現しないケースもある。

 臓器提供施設が少ないことが原因。国内の提供施設は約850カ所で、これらの病院に救急搬送されない場合もある。臓器提供のため、脳死判定が可能な別の病院に患者を搬送することは、法律で認められていない。ドナーや家族の意思を尊重するためにも、提供を待つ患者のためにも、提供施設を増やすといった環境整備が欠かせない。

 ―県内の体制について聞きたい。

 提供施設は県内に11カ所あるが、国が実施した調査に「体制が整っている」と回答したのは今年3月末時点で6カ所だけだった。臓器移植ができるのは岡山大病院と国立病院機構岡山医療センターの2カ所。いずれの病院も通常診療にコロナ対応などが加わっており、余裕は少ない。国内でようやく根付いてきた移植医療がさらに前に進むよう、収入に当たる診療報酬の加算に加え、脳死判定をサポートする仕組みづくりなどのバックアップを国に求めたい。

 ―県臓器バンクでは臓器移植に関する正しい知識の普及や啓発に取り組んでいる。

 移植医療の理念は、臓器提供を最期の意思として尊重し、移植を受ければ健康を取り戻せる人に命をつなぐこと。提供から移植への橋渡しをするコーディネーターらスタッフが提供施設に足を運び、協力を呼びかけているほか、今後も引き続きセミナーや街頭啓発などで理解を求めていく。皆さんにはいま一度、運転免許証や健康保険証の裏面を見てほしい。ここで臓器を「提供する」「提供しない」という意思を示すことができる。可能なら移植を待つ患者にも思いをはせていただき、家族とよく話し合ってもらいたい。

(2022年10月09日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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