(5)特発性正常圧水頭症~歩きにくくなったり、転びやすくなったりしていませんか~ 岡山ろうさい病院脳神経外科副部長 冨田陽介

冨田陽介氏

 近年、「治る認知症」として注目を集めている病気に、特発性正常圧水頭症があります。

 特発性正常圧水頭症は、idiopathic normal pressure hydrocephalus の頭文字をとりiNPHと呼んでおります。このiNPHは、(1)歩行障害、(2)認知機能低下、(3)尿失禁の三つの症状が主な症状であり、インターネット上でもよく紹介されている病気になります。

 画像検査をすると、頭部CTや頭部MRIで脳室が拡大していることが確認されます。少し専門的な内容になりますが、このiNPHは、脳室拡大に加えて頭頂部の脳のシワが狭くなることが特徴になります=図1

 一方で、脳全体が萎縮する場合も同様に脳室が大きくなりますが、頭頂部の脳のシワも拡大しており、両者は異なる状態であるといえます=図2

 ここで、症状の一つである歩行障害に焦点を当ててみます。歩行障害は、運動まひを伴わず、バランス感覚の低下により起こります。iNPHでは、歩行時の歩隔(足の幅)が拡大し、小刻みな歩行になります。また、バランス感覚が低下するために転びやすくなることも大事な特徴と言えます。

 近年、転倒をきっかけに画像検査を受け、iNPHを診断されるという患者さんが増えてきました。また、外傷をきっかけに病院を受診した時に、歩行障害・認知機能低下・尿失禁の三つの症状があることが判明することもあります。これは患者さん本人も気づかない程度の軽い症状が時間をかけてゆっくりと進行するためと考えられます。

 次に、当院で行っているiNPHの診療についてご紹介します。

 当院では、画像と症状からiNPHが疑われた場合は、3泊4日で検査入院をしております。背中から針を刺して髄液を採取し、その前後で歩行機能や認知機能の評価を行います。髄液を抜くことによって歩行機能や認知機能が改善していると判断された場合は、外科的治療を検討します。

 手術は、腰椎腹腔(ふくくう)シャント術と脳室腹腔シャント術の2種類の術式があります。これらの手術は、過剰になった髄液をおなかの中(腹腔内)に持続的に流すことで、脳の圧迫を軽くします。手術によって、歩行障害・認知機能低下・尿失禁の症状が軽快することが期待されます。特に、頻回に転倒するような歩行機能障害がある場合は、日常生活を送りやすくなるだけではなく、思わぬ転倒などによるケガを予防することもできるのではないかと考えられます。

 最後になりましたが、特発性正常圧水頭症(iNPH)について心配があるような方は、当院を受診してください。筆者の外来診察日は、毎週水曜日午前と金曜日午前になります。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)。連載は今回で終わりです。

 とみた・ようすけ 香川大学医学部医学科卒業。福山市民病院、広島市立広島市民病院脳神経外科、岡山大学病院脳神経外科を経て、2021年12月から岡山ろうさい病院脳神経外科、22年4月から同病院脳神経外科副部長。日本脳神経外科学会専門医。医学博士。

(2022年10月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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