乳がん 早期発見、治療を 専門医、認定看護師に聞く

岡山中央病院乳腺外科の今田孝子医師(右)と樹下真希医師

おおもと病院の乳がん看護認定看護師の大久保茂美さん(右)とがん看護専門看護師の岡田華恵さん

岡山済生会総合病院 乳がん看護認定看護師の岡本直美さん

倉敷成人病センター 乳がん看護認定看護師の小原未貴さん

 乳がんは女性のがんの中では最も多い。年間9万人超が罹患(りかん)し、約1万4000人が亡くなっていて、しかも増加傾向にある。他のがんは高齢になるほど発症リスクが高まるが、乳がんは30代から急増し40代後半からがピークとなる。家庭や職場で中心的な役割を担っている年代だ。それだけに早期発見、早期治療が大切で、セルフチェックをしたり検診を受けるなど、平素から乳がんを意識した生活を心掛けたい。10月は乳がんの正しい知識を広める「ピンクリボン運動」の啓発月間。岡山県内4病院の専門医や乳がん看護認定看護師らに、日頃の思いを語ってもらった。

岡山中央病院乳腺外科
今田孝子医師
樹下真希医師(セントラル・クリニック伊島)


 乳がんの多くは乳管の内部から発生します。大きく分けて非浸潤がんと浸潤がんがあります。

 非浸潤がんは乳管の中にとどまっている極めて早期のがんで、病期(ステージ)は0期となります。完治が見込めます。

 浸潤がんは、乳管を破って周辺の組織に染み込むように広がって、しこりを作ったり、リンパ管や血管に入り込んでリンパ節や他臓器に転移したりします。しこりの大きさや転移の状況などによって病期は1~4期と進みます。進行速度は比較的ゆっくりで、早期に治療できれば9割以上の患者さんが治癒します。

 早期発見の目的は、がんによる死亡を防ぐことにあります。病期と手術の大きさは一致しません。ステージ0の非浸潤がんでも、乳管に沿ってがん細胞が乳房内に広がっている場合は乳房を全て切除します。浸潤がんでも、しこりが小さければ部分切除となります。

 乳がんの早期発見にはマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)や超音波検査、MRI検査が有用です。

 マンモグラフィーは、がんの可能性を示す石灰化など、触っても分からないような早期のがんを見つけるのが得意です。一方、超音波検査は小さなしこりを見つけやすく、乳腺の発達している人の検査に適しています。

 乳がんは女性の9人に1人がかかると言われます。普段から自分の乳房を気にかけて、観察したり触ってみたりして、異常がないかを確かめる習慣も身に付けてください。

おおもと病院
乳がん看護認定看護師 大久保茂美さん
がん看護専門看護師 岡田華恵さん


 乳がんは早く発見できれば「治癒」する可能性が高くなります。

 40代から60代にかけて発症する場合が多いのですが、20代や30代の若い患者さんもいらっしゃいます。がんがまだ小さければ、温存手術といって乳房を残すことが可能な場合も多くなります。

 この年代の女性は家庭や地域でさまざまな役割を担っています。家事や子育てだけでなく、介護をしている場合もありますし、働いている方もいらっしゃいます。胸のしこりなどの異常に気づいても忙しさに紛れたり、家族優先で自分のことは後回しにしたりして、受診が遅れる場合があります。「もう少し早く来てくれたら」と思う患者さんは当院でも年に何人かいるのです。まずは相談していただけたらと思います。がんだと分かった場合は、治療やその後の生活について私たちも一緒に考えます。

 乳がんの専門病院である当院の特徴は二つあります。一つは、スタッフは経験豊富で小回りが利く病院なので、検査や診断から手術までが早いことです。患者さんが希望されれば、乳がんと診断されてから1週間程度で手術ができます。

 もう一つは、同じ医師が長期にわたって患者さんに寄り添えることです。乳がんは若い人でも発症しますし、治療後10年を過ぎて再発することもあります。主治医や看護師らが変わることなくゆっくりと信頼関係を深めながら、長年にわたって患者さんの状態を見守ります。

岡山済生会総合病院
乳がん看護認定看護師 岡本直美さん


 乳がんの早期発見には、がん検診を受け、セルフチェックを定期的に行うことが大切です。しかし検診率はいまだ低く(2019年国民生活基礎調査で47.4%)、コロナ禍での受診控えもあり、より一層の啓発が必要だと感じています。

 乳がんは9人に1人が発症するとされ、30代後半から増えてきます。がんの進行度合いによって違いはありますが、再発のリスクもあり、治療には長い期間を要します。多くの患者さんは通院しながら職場復帰したり、家事や子育て、介護に取り組むなど、治療と家庭・社会生活を両立させながら頑張っています。

 しかし、発見が遅れてがんが進行すると、リンパや血液の流れにのって肺や骨など全身に転移しやすいのも乳がんの特徴です。そうなると両立は難しい場合も出てきます。薬などによって病気の進行を抑えつつ、痛みや体のだるさなど症状を緩和する治療をしていただいている患者さんも少なくありません。

 当院では、乳房部分切除術の場合、手術の前日に入院していただき、術後の体調に問題なければ入院4日目には退院できます。手術で採取した組織の病理検査の結果を踏まえてその後の治療が決まります。抗がん剤治療や放射線療法、ホルモン療法があります。

 治療には副作用もあります。抗がん剤治療は吐き気、食欲低下、倦怠感(けんたいかん)、脱毛などが出現しやすく、ホルモン療法ではほてりやのぼせも見られます。われわれ医療スタッフはがん患者さんに寄り添い、つらい症状や不安の解消に努めます。

倉敷成人病センター
乳がん看護認定看護師 小原未貴さん


 乳がんの早期発見のために有効な「ブレスト・アウェアネス」を紹介します。

 「乳房を意識する生活習慣」のことで、四つのポイントがあります。まずは自分の乳房の基本の状態を知ること。見たり触ったりして「私の胸はこういった感じ」というのを理解するのが第1ステップです。基本形を知れば小さな異常でも気付きやすくなります。その上で気を付けるべき乳房の変化を知り、定期的にチェックするのが第2ステップ。しこりや乳頭分泌、乳頭や乳輪のただれ、皮膚のへこみや引きつれに注意することを覚えてください。

 第3ステップは、変化に気付いたらすぐに医療機関に相談をすること。そして、「自己チェックしているから大丈夫」ではなくて、変化がなくても年に1度は乳がん検診を受けることが第4ステップです。「自己チェックだけでいいのでは」とか「検診を受けているから自己チェックはいらない」ではなく、どちらも必要です。

 乳がんは誰もが発症する可能性がありますが、自分で見つけられるかもしれない病気です。だからブレスト・アウェアネスを若いときから習慣化してほしいのです。それに加え、30代に入ったころから年に1回は超音波検査を受けてみてもいいのではないかと思います。40歳以上になれば自治体のがん検診で、マンモグラフィー検査が受けられます。血縁に乳がんの方がいるなど心配な方は超音波検査も併用してほしいと思います。

(2022年10月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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