家庭での傷の初期対応とは? 中までしっかり洗う 岡山大学病院皮膚科講師 川上佳夫医師

川上佳夫医師

 11月12日は、日本臨床皮膚科医会が定める「いい皮膚の日」。皮膚の健康やトラブルについての正しい知識を広めようと、1989年から毎年啓発活動に取り組んでいる。今年は岡山大学病院皮膚科講師の川上佳夫医師が「皮膚に傷ができたら」のテーマで語ってくれた。

 傷には切り傷、すり傷などいろいろありますが、今回は、病院に行くほどではない、ちょっとしたけがをしたときの家庭での初期対応について述べたいと思います。

 昔はけがをしたら、消毒をして乾かして、かさぶたにして治していました。

 近年は、体が本来持っている自己治癒能力を生かして傷を治す湿潤療法が主流になりつつあります。

 具体的には、傷の周囲や表面だけでなく傷の中まで水道水でしっかり洗います。きれいに洗えば消毒の必要はありません。傷口は被覆材(通気性のある非固着ガーゼなど)で覆います。体内から出る滲出液(しんしゅつえき)によって適度に湿潤な環境を保つことで、傷を治して傷口をふさいでくれる細胞が増え、従来の乾かす方法よりも早く、きれいに治ることが期待できるのです。

 ただ、気を付けておかなければならないことがあります。密閉された湿潤な環境は、細菌が繁殖しやすい環境でもあるからです。

 薬局で市販されている「ハイドロコロイド製剤」は、傷口を密閉して湿潤環境を保ち、自己治癒能力を高めてくれます。適切に使えば効果は高いと思われます。ただ、十分に傷口を洗わなかったり何日も貼りっぱなしにしたりして、傷の中に残っていた細菌が繁殖して化膿(かのう)し、慌てて救急で病院を訪れた患者さんをこれまで何人も診てきました。中には入院して手術をしなければならなくなった患者さんもおられました。

 傷の治療で1番に問題になるのは感染です。家庭での初期治療で、しっかり水で洗い流したと思っても、細菌が残っていた、と言うことはあり得ます。ですから被覆材は少なくとも毎日貼り替えて、傷の様子を確認してほしいのです。化膿していたり痛んだり、熱を持ったりしていたら、医療機関で診てもらってください。

 傷の中に土や木片などの異物が残っているような深い傷の場合には取り除く必要があります。猫や犬にかまれた場合は感染症を合併することが多く、傷の中までしっかり洗浄して抗生剤を投与する必要があります。これらの傷では破傷風菌に感染するリスクもあり、トキソイドワクチンの投与が必要な場合もありますので、必ず医療機関で治療を受けてください。

 また、糖尿病などの基礎疾患のある方、免疫抑制剤を服用している人などは傷が悪化しやすいので、浅い傷であっても最初から医療機関を訪れてください。

 かわかみ・よしお 水戸第一高校、旭川医科大学医学部卒。岡山市立市民病院、倉敷成人病センターを経て2022年4月から岡山大学皮膚科講師。

(2022年11月07日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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