漢方の役割と効果 全体像把握し不調和正す 総合内科・総合診療科長 大塚文男教授(副病院長)、漢方臨床教育センター長 植田圭吾教授

岡山大学病院副病院長で、総合内科・総合診療科長の大塚文男教授(右)と漢方臨床教育センター長の植田圭吾教授

 岡山大学病院(岡山市北区鹿田町)が「漢方臨床教育センター」を開設して5年目を迎えた。センターは総合内科と産科婦人科、薬剤部を中心に消化器内科や小児科など複数の診療科で運営。漢方医学を実践し、教育できる人材の育成に取り組んでいる。副病院長で総合内科・総合診療科長の大塚文男教授と、漢方臨床教育センター長の植田圭吾教授に、医療現場における漢方の役割と効果を聞いた。

 ―岡山大学病院は2018年11月、漢方臨床教育センターを開設しました。その理由を教えてください。

 大塚 患者さんが抱える疾患、困った症状は多種多様です。西洋医学だけでは克服できない病気や状態があり、漢方が必要とされる場面は少なくありません。

 例えば、貧血を西洋医学で治して検査値は正常になったけれど、体のだるさは残っていることがあります。新型コロナウイルス感染症の後遺症でも同様です。そういった場合、患者さんに力を与えてくれるのが漢方です。体内環境を整え、より良く、より元気にといった治療の最後の一押しに漢方の力を借りています。

 当院でも多くの医師が日常的に漢方薬を処方しています。例えばコロナ後遺症に関しては全処方の4分の1が漢方です。漢方医学は伝統的な経験則に基づいた独特の理論で構築されていますので、センターと緊密に連携することで患者さんの病状に最も適した処方をしています。定期的な勉強会も院内で開いていますし、大学医学部では3年次に東洋医学が必修となっています。

 ―漢方医学とはどのようなものでしょうか。

 植田 漢方は、患者さんの体質など全体像を把握したうえで身体の不調和を正しながら、さまざまな症状に対処します。5、6世紀以降に中国から日本にもたらされ、独自の発展を遂げた日本の伝統医学と言えます。

 葛根湯(かっこんとう)や加味逍遙散(かみしょうようさん)といった漢方薬は、自然由来の原料(生薬)を複数調合して作る医薬品です。その効果は現代医学でも実証され、保険適用にもなっています。西洋の薬の多くは化学合成された単一成分で、一つの疾患や症状に高い効果を示します。漢方薬は複数の成分を含んでいますので、一つの処方でいろいろな症状に対応できる場合があります。長い歴史の中で、生薬同士の調和によって治療効果を高めたり、副作用を緩和させたりする工夫がなされています。

 ―漢方医学の考え方は。

 植田 漢方医学には「気・血・水」の三つの要素が調和を保ちながら体を巡って健康を維持しているという考え方があります。「気」は生命活動を営む根源的なエネルギーです。不調を来すと疲れて気が不足する「気虚(ききょ)」や、気分がふさいだり体が重苦しい感じの「気うつ」などを生じます。「血」は生体を物質的に支える赤色の液体のことで、流れが滞った状態を「瘀血(おけつ)」と言います。「水」は生体を物質的に支える無色の液体で、滞れば「水滞」を生じます。

 病態を把握する際には「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」という概念も用います。例えば「膝が痛い」という高齢の患者さんがいた場合、西洋医学では「変形性膝関節症」と診断するかもしれませんが、漢方の場合は「寒にやられている」「熱にやられている」といった見方をします。体を温めたり冷やしたりするような治療で症状を和らげるのです。

 ―漢方はがん治療にも役立っていますね。

 植田 がん自体の影響や、治療の過程で体力や気力を消耗して「気虚」に陥る患者さんは少なくありません。そこを漢方で下支えするのです。エネルギー不足を補って体力を回復し、生活の質を保ったり、治療が遂行できるよう手助けをしています。

 ―総合内科・総合診療科には漢方外来があります。

 大塚 原因がよく分からない頭痛やめまい、倦怠感(けんたいかん)、発熱など、他の診療科のカテゴリーに入りきらない状態の患者さんを診るのが総合診療科です。症状はあるけれど検査結果には表れず、何々病とか、何々症候群という診断に至らない、至れないというケースがあります。

 個別の臓器や疾患別ではなく、そうした患者さんの生活スタイルも含めた全体を診て問題を解決しようという方向性において、総合診療科と漢方は相性が良いといえます。エビデンス(科学的根拠)に立脚する西洋医学と、エクスペリエンス(経験)に導かれた漢方医学は、それぞれ病気に対するスタンスや視点は異なりますが、両者が連携することで診療の幅は大きく広がります。患者さんにより良い治療が提供できると考えています。

 おおつか・ふみお 岡山大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科修了。米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部研究員、岡山大学病院内分泌センター長などを経て2012年に同大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学教授、15年から岡山大学病院検査部長・輸血部長・超音波診断センター長併任、17年に岡山大学病院副病院長。

 うえだ・けいご 鳥取大学医学部卒業、同大学大学院医学系研究科修了。島根県立中央病院神経内科医長、千葉大学大学院医学研究院和漢診療学特任助教などを経て2017年に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科岡山県南東部(玉野)総合診療医学講座准教授、20年から同教授、21年に岡山大学学術研究院医歯薬学域岡山県南東部(玉野)総合診療医学講座教授。

(2022年11月07日 更新)

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