乳がん検診や予防法について 定期検診や健康的な生活重要

 川崎医科大学附属病院(倉敷市松島)乳腺甲状腺外科の平成人部長に、国内の乳がんの現状をはじめ、検診の重要性や予防法について聞いた。

⇒インタビュー動画

 ―日本人女性の乳がんのり患状況は?

 国立がん研究センターの「最新がん統計」によると、2018年の女性部位別がんり患数は、乳がんが最多の9万3858例ある。年代別のり患率を見ると、40~50代後半にかけて急増。60代で再びピークを迎える。現在では女性に9人に1人が乳がんにり患するといわれている。それに伴い、乳がんによる死亡者数も増加傾向にあり、2020年は年間で1万4650人の女性が乳がんによって死亡したと推定される。

 ―乳がんではどのような治療が主流なのか?

 乳がん治療の主体となるのは、手術療法・薬物療法・放射線療法だ。がんの進行程度やがんの持っている生物学的な特性に基づいて選択される。

 ―乳がんの治療成績は?

 乳がんの進行程度は腫瘍の大きさ、リンパ節への転移状況、遠隔臓器への転移の有無から0~4期に分類される。0~2期の初期なら90%以上の5年生存率が期待できる。また、発見時のがんが小さく、乳房内に病変がとどまっている状態で適切な治療を受ければ、高い確率で治癒が望める。だからこそ日頃から自分の胸に関心を持ち、体調管理していくことが大切だ。

 ―乳がん検診の有効性は?

 過去に行われた研究の多くで2年ごとのマンモグラフィー検診の有効性が示されている。最低でも2年に1度、マンモグラフィー検診を受けるのがお薦め。最近の研究では、40代の女性に対し、マンモグラフィー検診と超音波検診を併用することで乳がんの発見率が上昇することも分かっている。

 ただ、検診と検診の間に発見される「中間期乳がん」には注意が必要だ。中間期乳がんはリンパ節転移の頻度が高く、がんの悪性度が高いなどの特徴がある。検診で異常がなかった場合でも、普段からセルフチェックを心掛け、異常を感じたら早めに医療機関を受診してもらいたい。

 ―セルフチェックはどのようなことをすればよいのか?

 入浴時にせっけんをつけて乳房の触診を行う▽鏡の前に立ち乳房の左右差やへこみがないかを確認する▽乳頭の分泌液がないか確認する―といったことが挙げられる。

 ―乳がんは遺伝するのか?

 全乳がんの5%ほどは遺伝によって発症する。その7割がBRCA1、BRCA2という遺伝子の病的バリアント(変異)を生まれつき有している「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」だ。若年発症、乳がんや卵巣がんの家族歴がある、両胸乳がんが見られる場合、遺伝的素因が疑われる。該当者は2020年4月から保険適用で遺伝子検査が受けられるようになっている。

 ―遺伝子検査はどこで受けられるのか?

 JOHBOC(一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構)では、しっかりとした診療体制で遺伝子検査が受けられる施設を認定し、ホームページで公開している。検査可能な施設は「基幹施設」「連携施設」「協力施設」の三つに分けられている。これらを確認した上で、遺伝カウンセラーや専門医が常駐する施設で、十分な説明を受けた後に検査を受けることを推奨する。検査後はアフターケアを含め、予防的な切除手術や経過観察を行うことが大切だ。

 ―川崎医科大学附属病院でも受けられるのか?

 川崎医科大学附属病院はJOHBOCの基幹施設に認定されている。遺伝診療部が中心となり、遺伝性乳がん卵巣がん症候群のカウンセリングや遺伝子検査を実施。遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者に対するリスク低減の乳房切除、卵管卵巣切除といった手術を実施できる施設にも認定されている。

 ―乳がんの予防法は?

 がんは遺伝子が正常に働かなくなることで発生する。原因はいまだ完全に分かっていないが、生活習慣や環境、遺伝など複数の要因が積み重なり発症すると考えられている。日本乳癌(がん)学会が過去の研究報告を整理したガイドラインによると、閉経後の肥満は乳がんと確実に関連があると言われ、喫煙や飲酒、糖尿病との関連性もほぼ確実と言われている。運動とバランスの良い食事摂取による肥満の予防、飲酒や喫煙を控えるなど健康な日常生活を意識していくことが大切だ。


(2022年12月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

医療人情報

  • 乳腺甲状腺外科部長  平 成人
    1994年、山口大学医学部卒業。四国がんセンター外科レジデント、岡山大学病院乳腺・内分泌外科助教、同講師、同准教授などを経て、2022年4月から川崎医科大学乳腺甲状腺外科学教授。日本外科学会指導医、乳腺指導医。

タグ

カテゴリー

関連病院

PAGE TOP