(5)心不全と在宅医療~なるべくご自宅で過ごすために 心臓病センター榊原病院循環器内科・副院長補佐 川元隆弘

川元隆弘氏

 わが国では高齢化に伴い心不全患者の数は増え続けており、現在120万人が罹患(りかん)しているといわれています。いったん心不全となると軽快することはなく、少しずつ進行していきます。薬剤を内服しながら外来へ通院し、病状が悪化すれば入院して点滴、手術、カテーテル治療などを行い、再度外来へ通院するというのが一般的な経過です。

 このように心不全では入院加療を繰り返すことが多いのですが、病客様は一日でもご自宅で過ごしたいといわれる方が多く、そのためにさまざまな取り組みを行っています。そのいくつかをご紹介します。

 ■外来カテコラミン療法

 週に1回程度、定期的に来院いただき、カテコラミン類の点滴投与を行うものです。

 カテコラミンというのは強心作用を持つ薬剤の総称です。そのなかでも心不全改善効果の高いドブタミンやミルリノンという薬剤をゆっくりと投与いたします。

 通常は入院治療の際に使用する薬剤ですが、外来にて投与することで肺うっ血をとり、臓器の循環を改善した状態とします。いわば退院時の状態にリフレッシュするといったイメージでよいと思います。

 より重症となった場合には輸液ポンプを使用し在宅にて連日持続投与も行っています。

 ■在宅酸素療法(HOT)

 心不全状態では肺での酸素交換がさまたげられ、血液中の酸素濃度が低下します。酸素吸入を行うと低下した血中酸素濃度をすみやかに改善することが可能です。

 通常は入院加療にて行いますが、在宅にて酸素吸入を行うものが在宅酸素療法になります=イラスト。重症の心不全では肺高血圧症や高度の低酸素血症がなかなか改善しないことがあり、そうした場合が適応となります。

 酸素濃縮装置や酸素ボンベ、液化酸素装置といった特殊な装置を使用し酸素を供給します。従来長期入院を必要としていた重症心不全例でも早期の在宅復帰が可能となります。

 ■CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)

 心不全では7割以上で睡眠時無呼吸症候群を合併していることが知られています。こうした睡眠時無呼吸症候群のなかでも気道狭窄(きょうさく)を伴う閉塞型では、就寝中に鼻を密閉する特殊なマスクを装着し肺内の圧を陽圧に保つようにすると、気道が拡張し無呼吸が生じにくくなります。これをCPAP療法といいますが、在宅でおこなうことで日中の眠気が改善するとともに、心不全入院を予防することが期待できます。

 ■ASV療法(適応補助換気療法)

 重症心不全ではチェーンストークス呼吸といわれる中枢性の無呼吸発作を合併することがあり、上述したCPAP療法では効果が乏しくなります。そうした場合には人工呼吸器を使用し呼吸に同調して補助換気をおこないます。これがASV療法と呼ばれるものです。ハンディ型人工呼吸器を使用し在宅でASV療法を導入し、重症例での心不全発症を予防します。

 ■地域包括ケア病棟

 心不全患者の特徴のひとつに高齢者が多いということがあげられます。高齢者は疾病を持っているだけではなく、基本的な体力、判断力、記憶力が低下しています。これは加齢に伴う生理的な変化であり、誰もが避けて通ることはできません。地域包括ケア病棟ではこうした高齢者がご自宅で健康に過ごせるように、疾病の治療だけではなく、介護サービスの調整やリハビリテーションを通じて包括的に援助いたします。

 在宅医療における私たちの取り組みをご紹介いたしました。これからもよろしくお願いいたします。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)。連載は今回で終わりです。

 かわもと・たかひろ 京都大学医学部卒。神戸市立中央市民病院、川崎医科大学附属病院、鹿児島徳洲会病院などを経て、2017年より心臓病センター榊原病院勤務。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医。

(2022年12月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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