第8回「脳」 川崎医科大学脳卒中医学 八木田佳樹教授

八木田佳樹教授

 脳は生命の維持、思考や判断などの知的活動、感情と感覚、運動など人間の体全体をコントロールしている司令塔だ。その脳に栄養分と新鮮な酸素を供給しているのが脳動脈で、ここが詰まったり破れたりすると脳はたちまちに機能を失い、壊れていく。川崎学園特別講義の第8回は「脳」。川崎医科大学脳卒中医学の八木田佳樹教授に、その仕組みや働き、主な疾患である脳卒中について解説してもらった。

 ■仕組みと働き

 脳はとても大切な臓器なので、硬い頭蓋骨の中で3層の膜に守られています。一番外側が硬膜、その内側にくも膜があり、脳にくっついているのが軟膜です。くも膜と軟膜の間は脳脊髄液で満たされ、そこに太い脳動脈が通っています。脳実質の中は0・3ミリ以下の細動脈ばかりで、太い動脈はありません。

 【脳動脈】

 脳に血液を送る主な動脈は左右の内頸(けい)動脈と椎骨動脈の計4本です。内頸動脈は脳の底に突き当たると前大脳動脈と中大脳動脈に分かれます。前大脳動脈は大脳の中央部に、中大脳動脈はそれ以外の大脳の広い領域に血流を送っています。

 椎骨動脈は頭蓋骨の中で1本に合流して脳底動脈になります。脳底動脈は小脳と脳幹に血流を送り、その後左右の後大脳動脈に分かれます。後大脳動脈は後頭葉と側頭葉の内側、感覚神経の中継点である視床などに血流を送っています。

 【脳の機能局在】

 脳は大脳と小脳、脳幹などからなり、大脳は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分かれています。各部位にもさまざまな領域があり、それぞれ特定の機能を担っています。

 前頭葉には言葉を話すための言語中枢(ブローカ野)、手や足、顔面などを動かす運動中枢があります。知能や理性、人格、感情のコントロールも司っています。前頭葉が壊れると、領域にもよりますが、手や足などがまひします。さらに、計画が立てられなくなったり突発的な行動をしたり、感情のコントロールができなくなったりします。これを高次脳機能障害と言います。

 頭頂葉は概念と運動です。体の感覚を認識する感覚中枢があります。一連の複雑な動作なども受け持っていて、障害されると、例えば急須を使ってお茶を入れるような複雑な動作ができなくなります。

 側頭葉には聴覚中枢があり、内側には海馬という記憶中枢があります。脳梗塞などで海馬がやられると新しく記憶することができなくなります。目や耳から入った言語情報を理解する言語中枢(ウェルニッケ野)もあります。前頭葉のブローカ野とウェルニッケ野はつながっていてネットワークを構築しています。

 後頭葉の役割は主に視覚です。

 小脳は運動の調節をしています。

 脳幹は大脳と全身をつなぐ経路であり、呼吸や自律神経など生物として生きていくために必要な機能の中枢が詰まっています。

 ■主な疾患

 脳動脈が詰まったり破れたりすると、血流が途絶えて脳細胞は壊れます。脳動脈は、血流を送る担当領域が決まっているため、異常を来した脳動脈(責任血管)によって、出現頻度の高い症状がだいたい決まっています。

 【脳卒中】

 脳血管障害の中で、急に手足のまひや言語障害などの神経症状が出現するものを脳卒中といいます。脳血管が詰まると脳梗塞、破れたら脳出血になります。

 脳梗塞の原因はいくつかあります。血管の壁の中にコレステロールがたまる動脈硬化で血管内が狭くなり、ついには詰まるアテローム血栓性脳梗塞、心臓から流れてきた血栓で詰まる心原性脳塞栓症、高血圧などが原因で細動脈が詰まるラクナ梗塞などがあります。

 血管が破れる脳出血の原因もいろいろです。最も多いのが高血圧です。脳の内部を走っている細動脈が高い圧力に長年さらされ、もろくなってしまいます。

 もう一つは、変性したたんぱく質であるアミロイドが細動脈にとりつき、もろくなって破れます。

 アミロイドは、脳の神経細胞を死滅させてアルツハイマー病を引き起こす原因物質と言われています。そのアミロイドが細動脈の血管に沈着して炎症が起きるのです。

 太い脳動脈には脳動脈瘤ができることがあり、これが破れるとくも膜下出血を発症します。

 【責任血管と神経症状】

 前頭葉後方にある運動中枢のうち、下肢を動かす指令を出している領域は脳の上部にあります。その領域に血流を送っている前大脳動脈領域に脳梗塞を生じると、下肢に強いまひが出ます。

 顔や上肢の領域に血流を送っているのは、側頭葉などを流れる中大脳動脈であるため、ここに脳梗塞を生じると顔や上肢に強いまひが出ます。中大脳動脈領域の脳梗塞では、言語中枢がやられたことによる失語なども起こります。

 後頭葉に血流を送っている後大脳動脈領域の脳梗塞では視野欠損(見える範囲が狭くなる)が起こります。右の後頭葉が障害されると、左側の視野が見えなくなります。両側の後頭葉が障害されると全体が見えなくなります。この場合、眼球自体には異常がなく、後頭葉大脳皮質の異常による症状であるため、皮質盲といわれます。

(2023年01月16日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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