(10)放射線治療の普及に向けての課題 津山中央病院放射線科部長 尾形毅

尾形毅氏

 当院では従来の直線加速器によるエックス線放射線治療に加え、2016年より中四国初の陽子線治療を開始しました。

 エックス線は体を通り抜ける過程で組織に影響を及ぼしますが、陽子線は体内の一定の深さでエネルギーを多く放出します。このことにより、病変の周囲にある正常組織への影響を少なくしながら、病変部には十分な線量を当てることが可能となります。

 ただし照射計画や検証、実際の照射にはエックス線治療とは異なった知識や技能が必要となり、安全で有効な治療を実現するためには粒子線治療に特化した人材が求められます。具体的には放射線治療専門技師や医学物理士といった専門資格を有する人材が必要ですが、地理的な問題もあり、そういった人材の確保が難しくなってきている状況です。

 陽子線治療は開始当初は小児がんのみに保険適応がありましたが、18年4月より前立腺がん、一部の頭頚(けい)部がん、根治的手術が困難な骨軟部腫瘍が保険適応となり、22年4月からは4センチ以上の切除不能肝細胞がん、切除不能肝内胆管がん、切除不能局所進行膵(すい)がん、切除不能な大腸がん術後局所再発病変にも適応が拡大されました。現在は、先ほど述べた人材確保の問題で一部適応を制限していますが、今後人員が整備でき次第、これらの疾患にも積極的に対応していきたいと考えています。

 一方、エックス線治療については体幹部(肺など)や脳転移・脊椎転移に対する定位放射線治療など、従来県南の施設でしか行えなかった高精度治療を積極的に進めています。

 放射線治療で扱う疾患は頭部から頚部、胸腹部、骨盤部、四肢までほぼ全ての腫瘍性病変となりますので、放射線治療医のみで合併症などのマネジメントを全て行うのは不可能です。多くのがんでは手術療法や薬物療法と組み合わせて放射線治療を行うため、他診療科や他病院との連携やご助力が必要となります。

 そういった意味で放射線治療というのは放射線科内だけでなく、病院全体ひいては地域医療の充実があってはじめて高いレベルの治療が実現するものだと痛切に感じております。

 がんによる苦しみから一人でも多くの人を救うため、適切な時期に放射線治療を受けていただけるよう皆さまの力を借りながら微力を尽くしたいと思います。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)。連載は今回で終わりです。

 おがた・たけし 岡山大学医学部医学科卒業。津山中央病院、岡山大学病院、国立病院機構岩国医療センターを経て2021年7月から津山中央病院放射線科部長。

(2023年02月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

タグ

関連病院

PAGE TOP